「解散と総選挙の時期に関して、安倍首相があらゆる場合を想定して、万全の態勢を整えつつある」と分析する古賀茂明氏

安倍首相の唐突な真珠湾訪問発表。そしてカジノ法案の強行採決。一方で、日本維新の会が政治塾をスタートするという。

この3つのニュースから見える安倍政権のしたたかな選挙戦略を、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が読み解く!

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12月5日、安倍首相の真珠湾訪問が唐突に発表された。その翌日にはカジノを含む統合型リゾート施設の整備を推進する法案(以下、カジノ法案)が衆院の賛成多数で可決。野党が反発するなか、安倍自民は6時間の審議で強行採決した。

一方、日本維新の会(以下、維新)が新しく政治塾をスタートさせるというニュースもあった。今月18日にも東京で「維新政治塾」を開講するという。これらのニュースを重ね合わせると、解散と総選挙の時期に関して、安倍首相があらゆる場合を想定して、万全の態勢を整えつつあることが読み取れる。

カジノ法案は国民の評判が悪く、世論調査でも約6割が反対に回った。読売や産経など安倍政権支持の新聞まで「審議時間が足らず、拙速だ」と批判する社説を掲げたほどだ。

普通、政権与党は選挙前に評判の悪い法案は審議しない。多くは選挙後に先送りする。支持率が落ちて、選挙に不利になるからだ。しかし、安倍政権はTPPや年金削減法案に続いて、カジノ法案までも大急ぎで仕上げようとしている。これを見れば、安倍首相が早期の解散・総選挙をやめようとしていると考えるのが普通だ。維新塾が東京で開講するニュースは、その見立てを補強する材料となる。

自民党は野党共闘を警戒している。永田町周辺では、民進、共産、社民、自由の4党が統一候補を立てれば、次の衆院選で自民の議席数が2桁減るという観測もある。そうなれば、与党の衆院勢力はおそらく3分の2を下回り、安倍首相念願の憲法改正に黄信号が灯(とも)りかねない。

ただ、補完勢力となる友党がいれば話は別だ。友党の議席を足して3分の2を確保していれば、憲法改正はやれる。官邸がその補完勢力として維新を想定しているのは言うまでもない。

カジノ法案は維新への手土産

来る衆院選で、維新が野党共闘に乗らずに独自候補を立てれば、小選挙区は自民、野党連合、そして維新の戦いになる。維新が集票することで野党票が割れれば、自民候補の勝率は高まる。もし自民候補が負けても維新の候補が勝てば、憲法改正勢力にカウントできる。官邸はそうソロバンを弾(はじ)いているのだろう。

とはいえ、見返りなしでは維新に連携を頼めない。維新が大阪市夢洲(ゆめしま)にカジノ誘致を望んでいることはよく知られている。そこでカジノ法案が、維新への手土産として用意されたわけだ。

東京での「維新政治塾」スタートは自民・維新連合の証となる。国政進出を果たしたとはいえ、維新は関西圏を基盤とする地域政党でしかない。安倍自民と全国の選挙区で連携するには、自らのウイングを関西以外の地域に広げないといけない。

維新はその第一歩として、東京で政治塾を開いて候補者を発掘しようともくろんでいるのだ。来夏の都議選で、維新系の都議が当選すれば関東進出の大きな弾みになる。

年明け解散を先送りすると、解散のタイミングを逃すのではないかという懸念があったが、維新の勢力拡大を待って、密接な協力を得れば、来秋以降の衆院解散でも、憲法改正に必要な勢力の維持は可能だ。

一方、年末の真珠湾訪問で、内閣支持率が一気に上昇するようなことがあれば、その勢いで、年明け解散総選挙になだれ込む選択肢もある。どちらに転んでも悪くはない。

安倍首相は自らの「強運」が酉(とり)年も続くと思っているのだろう。果たして、そううまくいくのだろうか。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)