“参院のドン”と呼ばれ、政界に大きな影響力を持っていた元自民党参議院議員の村上正邦氏(右)と、“日本会議ブームの火つけ役”である菅野完氏

昨年7月の参院選前後から、にわかにその存在が注目され始めた「日本会議」

安倍内閣の閣僚や国会議員の多くが、その支援組織に所属し、自民党が目指す憲法改正をはじめとする各政策に大きな影響力を持つとされる右派の市民団体だ。

それまで謎に包まれていたこの組織に光を当てたのが、昨年5月に発売され、たちまちベストセラーとなった『日本会議の研究』(扶桑社新書)の著者、菅野完(すがの・たもつ)氏。

年明けの1月6日には著作内に登場する男性が名誉毀損で訴えた申し立ての仮処分が東京地裁から下され、出版停止の判決に波紋を呼んでいるが、今回、その続編ともいうべき対話集『日本会議をめぐる四つの対話』(K&Kプレス)が刊行。

発売に先立って、同書で菅野氏と対話した日本会議誕生の経緯を知るキーパーソン、元自民党参議院議員の村上正邦(まさくに)氏との刊行記念トークショーが開催された。そこで語られた「日本会議の実体」とは?

■生長の家への接近は「票」のためだった

2016年の年の瀬を迎え、忘年会客で賑(にぎ)わう東京・渋谷の繁華街。その一角にあるイベントスペースで行なわれたトークショーは不思議な「熱気」に包まれていた。

ステージ上にいるのは“日本会議ブームの火つけ役”である菅野完氏と、かつて“参院のドン”と呼ばれて、政界に大きな影響力を誇った村上正邦氏だ。

実は村上氏は、日本会議の前身である「日本を守る会」や「日本を守る国民会議」のリーダーを務め、日本会議の源流ともいえる宗教団体「生長(せいちょう)の家」の政治運動を、そのごく初期から支えた人物のひとりでもある。

その夜、村上氏は若き日に政治家を志し、生長の家と出会った経緯から話し始めた。

「私は元々、生長の家の信者だったわけじゃないんです。きっかけは『票』のためでした。政治家を志した時、宗教団体の支援があったほうがいいということで、目をつけたのが谷口雅春先生の生長の家だったんですね」

当初は「選挙の道具」として宗教を利用するつもりだったとアッケラカンに語る村上氏。ところがその後、村上氏は急速に創始者・谷口雅春の魅力に惹き込まれていったのだという。

「まず日本人なら、自分の両親に感謝しなくちゃいけない、そして天皇陛下の歴史を勉強しなさいといった谷口先生の教えを受けて、自分は人間としての第2の目覚めを経験したんです。

私は生長の家の信者となり、練成道場で毎朝4時に起きて、道場の便所掃除をやり続けました。当時、同じ道場にいた鈴木邦男さん(右翼団体・一水会元顧問)に『村上さん、そこまでやらなくてもいいんじゃないですか?』と言われたけれどね」

そう語る村上氏は、往年の大物政治家というより、宗教熱心な老人か、いわゆる「自己啓発セミナー」の体験者のように見えた。

 

「日本会議を束ねるラスボス」

■霊的なパワーを持つ日本会議の中心人物

こうして生長の家に入信した村上氏は、共に政治家を志した盟友、玉置和郎(たまき・かずお、故人・元総務庁長官)と教団の政治運動を主導し、1979年には元号法の制定などで実績を上げる。その翌年には念願の初当選。その後、日本会議の母体となった「日本を守る国民会議」の設立に関わった。

しかし、その村上氏は現在、日本会議とは距離を置いている。それどころか、日本会議のあり方を鋭く批判する菅野氏と、こうして対話まで行なっているのはなぜなのか?

トークショーでは、生長の家の政治活動が、次第に村上氏の制御が及ばなくなっていった内実が明かされた。

「今だから話せることですが、生長の家の大きな政治目標のひとつだった『優生保護法の改正』をめぐる問題で、僕は(生長の家)青年会の連中に監禁されて、何時間もグイグイとやられたことがあるんですよ」(村上氏)

谷口雅春は妊娠中絶の禁止を訴え、「優生保護法の改正」を「自主憲法制定」と並ぶ重要な政治目標としていたのだという。

しかし、国政で村上氏らが取り組んだ法改正は結果的に頓挫(とんざ)してしまい、後の「日本会議」につながる教団内部の急進的なグループからの強い批判にさらされることになったのだ。

「『生長の家や谷口先生の方針に忠実でない』ということでね。当時は監禁というより『宗教的指導』だと思っていたけどねぇ…。まあ監禁といえば、監禁だな(笑)」と、村上氏は時折笑顔を見せながら話すが、教団の一室に数時間にわたって閉じ込められ、「暴行を受ける寸前だった」というのだから穏やかではない。

その時、村上氏は「あ、これが内ゲバというやつだな」と直感的に思ったという。そして自身に降りかかった監禁事件について、こう続けた。

「安東さんが直接指示したとは思わない。おそらく、暗示を受けたのでしょうね」

この人物は当時、教団内でも絶大な影響力を持っていたとされる安東巖(あんどう・いわお)氏のこと。菅野氏によれば、日本会議の事務総長を務める椛島有三(かばしま・ゆうぞう)氏や安倍内閣の首相補佐官を務める衛藤晟一(えとう・せいいち)氏らと同じ「日本会議の中核メンバー」だという。また、「日本会議を束ねるラスボス」だとも指摘する。

「霊的な力」の影響を受ける異常事態

だが、トークに耳を傾けながら不思議に思ったのは、直接ではないにしろ、過去にそんな恐ろしい目に遭わされたにもかかわらず、村上氏は決して安東氏のことを悪く言わないということだ。

一方で、他の日本会議幹部、例えば、衛藤氏や安倍首相のブレーンといわれる「日本政策研究センター」の伊藤哲夫氏のことは「軽蔑している」「二枚舌で好きじゃない!」などと容赦なく切り捨てる。

しかし、自分より7歳も年下の安東氏のことだけは、常に「さんづけ」で呼び、「安東さんのことは心から尊敬している。彼は谷口雅春先生の霊的な後継者で、『病気治し』の力でも知られている」と、そのオカルト的なパワーに、むしろ畏敬の念を抱いていることを村上氏はキッパリと公言するのだ。

菅野氏は、こうした安東氏の「霊的な力」が日本会議を束ねるひとつの重要な要素なのだと語る。

「私は安東巖こそが、日本会議の中心人物だと見ているのですが、その安東には村上先生の言うように、谷口雅春の『霊的な後継者』という一面と、生長の家が3代目の総裁・谷口雅宣(まさのぶ)氏になって政治活動をやめた後の『政治的な後継者』というふたつの側面があるのだと思っています。

もちろん、『霊的な力』というのをどのようにとらえるかは、人によって異なるところでしょうが、日本の政界で大きな影響力を誇り、一時はキングメーカーのひとりでもあった村上先生のような方ですら、安東を畏(おそ)れている。そのことが、日本会議における安東の存在の大きさを象徴しているのではないでしょうか。

そして、その安東の強い影響下にある衛藤や伊藤、憲法学者の百地章(ももち・あきら)といった日本会議のコアメンバーが、首相補佐官やブレーンとして安倍政権の政策に多大な影響を与え続けているというのは、異常事態と言わざるをえません」(菅野氏)

★後編⇒「憲法9条より改正したい24条…“女性蔑視”の真意とは。元参議院のドンが暴露する、日本会議の実体!」

(取材・文/川喜田 研 撮影/村上宗一郎)

『日本会議をめぐる四つの対話』(K&Kプレス、1500円+税)白井聡氏、村上正邦氏、横山孝平氏、魚住昭氏との対話を通じて、『日本会議の研究』では暴けなかった真実を明らかにする新刊