『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが2016年に起きたトランプ旋風やEU離脱など。今年は「脱属性」「脱国家」が流行する動きがあると語る。
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アメリカのトランプ旋風、イギリスのブレグジット(EU離脱可決)、そして欧州各国の極右政党の台頭。2016年、国際社会で起きたこれらの政治的事件の共通項は「排他性」、つまり特定の属性を持つマイノリティに対する攻撃性です。リアルにせよSNSにせよ、残念ながらさまざまな局面で人間の持つ攻撃性が発露される時代になりました。
それなら、いっそすべての属性から脱してしまおうーーそんな動きが今年は生まれてくると思います。何かしらの政治性に身を置いたことで攻撃対象になるくらいなら、タンポポの種のように、風に吹かれて散りゆく“浮遊層”になろう…と。
LGBTの世界では、そうした傾向がすでにあります。例えば「パンセクシャル」。便宜的に「全性愛」と日本語訳されることもありますが、要するに男でも女でもない極めてニュートラルな存在を指すジェンダー用語で、これを自称するアーティストが現れ始めている。過去の差別の歴史から、LGBT界隈ではどうしてもリベラル左翼的な活動が強いのですが、そうした枠組みから離れて“しめやかにトランス”しようという動きです。
これはセクシャリティの枠組みからの離脱ですが、これからは「国家」という枠組みから離脱しようという人も増えるでしょう。
かつては「国家がみんなを豊かにする」という約束があった。ひとりひとりが“違う人たち”であっても、国家のために互いに協力し、みんなが豊かになろうという無形の愛があった。しかし、今ではその豊かさへの約束がとうてい信用できないばかりか、むしろ「国家」を強調した瞬間、そこにヘイトが現れるという“負の象徴”になりつつある。であれば、いっそ愛国心を放棄するーーつまり“脱国家”を宣言しよう、というわけです。
ヒト・モノ・カネが国境を超えるグローバリズムからさらに進んで、人間のアイデンティティそのものが近代国家という枠組みから離れていくというわけです。
逃避した先に未来はない…
…さて、この動きは果たして世界を変えられるでしょうか? 実は、これは約四半世紀前の僕自身のメンタリティなのです。
僕は1991年に日本へ戻ってラジオ番組を始めたのですが、その直前のアメリカでは、共和党政権と“モラル・マジョリティ”が女性の社会進出を法制度上阻もうとする一方、先鋭化したフェミニストたちはなんの戦略も持たずに抗議を繰り返すばかりでした。両陣営による紋切り型の言い合いに嫌気がさした僕は、逃避するようにとことん精神世界へとのめり込んだ。
日本に戻ってからも、しばらくは国政選挙にも知事選にも興味を示さず、かたくなに非政治性を貫いて、どこからも攻撃されないような立ち位置をとり続けました。
でも、ふり返ってみれば結局、自分が関わらなくても世の中は悪い方向に行く。はっきり言えば、厭世(えんせい)は逃避であり、放棄。だからオバマは“HOPE”を掲げてみんなに関わろうと呼びかけ、ヒラリーもその路線を踏襲しようとしたんです。
あらゆる属性から離れたくなる気持ちはよくわかる。でも、僕の経験からいうと、結局は逃げても追いかけてくる。逃避した先に未来はない。そのことを年の初めにはっきり言っておきたいと思います。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など