『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがアメリカ&欧州の極右政治家とロシアをつなぐ白人至上主義者たちについて語る。
ついに発足したドナルド・トランプ新政権。米政権としては異例の「親ロシア」ぶりが指摘されているが、それどころか、すでにプーチン大統領の“乗っ取り”が始まっていたーー!!
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■プーチンの最側近とトランプ応援団の接点
「アメリカは白人のものだ!」「ヘイル・トランプ(トランプ万歳)!!」
昨年11月19日、ドナルド・トランプの米大統領選勝利を祝う支持者たちの会合の壇上で、こんな演説をした人物がいます。名前はリチャード・スペンサー。トランプ大統領誕生を強力にバックアップしたネット発の白人ナショナリズム運動「Alt-Right(オルトライト)」の中心人物とされ、白人優位主義や反ユダヤ主義を標榜(ひょうぼう)する「国家政策研究所」の代表を務める男です。大統領選では、彼の言動が若い白人の投票行動に相当な影響を与えたとみられています。
ちなみに「ヘイル・トランプ」とは、もちろんナチスドイツ時代の「ハイル・ヒトラー(ヒトラー万歳)」という有名なフレーズを英語でまねたもの。参加した人々が大いに盛り上がり、ナチス式敬礼まで飛び出す様子が動画でも報じられています。
トランプが覚醒させつつある21世紀の「アメリカン・ファシズム」ーー実は、そこにはかつてアメリカと激しく対立していたロシアの思想的影響が色濃く表れています。そのカギを握るのが、アレクサンドル・ドゥーギンというロシア人です。
ドゥーギンは地政学を専門とするモスクワ大学の教授で、ロシアがユーラシア大陸に広く勢力圏を張って君臨するという「ネオ・ユーラシア主義」を提唱する思想家。プーチンのブレーンであり、一説にはクレムリンへフリーパスで入れるほどの“最側近”ともいわれています。
ドゥーギンの活動はロシア国内にとどまりません。その白人優位主義的主張を拡大すべく、欧米各国の極右勢力(例えばイギリスのEU離脱を扇動した英独立党)のカンファレンスにスカイプで参加するなど、世界各地の排外主義者たちを啓発するロシア的思想の拡散役でもあります。
カンのいい人はもう気づいたと思います。そう、プーチンの最側近であるドゥーギンは前述のリチャード・スペンサー、言い換えればトランプ大統領を誕生させたAlt-Rightの中心人物が主催するシンポジウムにも、スカイプでゲスト出演していたのです。スペンサーは以前からプーチン大統領を称賛するなど“ロシア推し”の姿勢が見えますが、これは果たして偶然でしょうか?
米大統領がロシアに弱みを握られている?
さらに言えば、すでに離婚しているスペンサーの元妻はロシア人のライターで、ある意味ではスペンサー以上にいわくつきの人物です。何しろ彼女は、ドゥーギンの著作をボランティアで英訳するなど、ネオ・ユーラシア主義の英語圏での啓蒙(けいもう)に自ら一役買っているのですから…。
1月9日には、在英ロシア大使館の公式アカウントによるこんなツイートが一部で物議を醸しました。
「英各紙は、テリーザ・メイ首相に『米露関係の改善を阻害しろ』と訴えかけているけど、最大の友人・同盟国のアメリカを信頼できないのか?」
大使館アカウントがこんな政治的発言をたれ流すだけでも十分に挑発的ですが、話題になったのはそこではない。最大の問題は、このツイートに “Pepe”と呼ばれるカエルのイラスト画像が添付されていたことです。
その意味するところは、欧米の政治をウオッチしている人間ならすぐに理解できるはず。何しろPepeは、他でもないアメリカのAlt-Rightの象徴的キャラクターなんです! …正直、あまりの露骨さに、もうドン引きです。
■トランプ新政権はプーチンの理想?
英独立党(UKIP)、フランス国民戦線(FN)、オランダ自由党(PVV)…欧州で猛威を振るう極右政党は、皆一様に親露です。単純に思想的な理由だけでなく、どうもロシアから資金提供を受けて活動しているとみて間違いない。そしてアメリカのトランプも、どうやらロシアから様々まな形で「選挙協力」を得たという報道が出てきています。
ロシアにしてみれば、排外的な思想と潤沢な工作資金を戦略的にエクスポートし、欧米にまたがる“枢軸”をつくることで、自らの権益圏・影響圏を広げられる。各国にくすぶる白人の不満にレバレッジを利かせることで、かつてソ連を封じ込めた西側の先進国を乗っ取ろうとしているわけです。しかも、人々のマインドをハッキングするという「民主的な方法」で。
トランプは新政権の閣僚の最重要ポストである国務長官に、親露派でプーチンともパイプがあるといわれる石油最大手エクソンモービル前CEOのレックス・ティラーソン氏を指名しました。また大統領選でも、トランプと激しく戦ったヒラリー・クリントンにとって不利になるようなメールがロシアのサイバー攻撃により流出し、それが選挙結果に大きな影響を与えたといわれています。
ただ、その一方で、ロシアの情報機関がトランプのモスクワでの猥褻(わいせつ)行為を把握しているとの報道も出ています。新政権発足前に、すでに米大統領がロシアに弱みを握られているとしたら…。
プーチンが “黒幕”として国際社会を牛耳る
真偽はどうあれ、ロシアが仕掛けた(と思われる)情報戦にアメリカ社会が揺さぶられ、混乱する様を見て、こう思わずにはいられません。ハッキングされたのはメール(情報)だけでなく、アメリカという国家あるいはアメリカ人のマインドそのものだったのではないか、と。
アメリカで反グローバリズムの極右政治家が政権を取り、内向きになって「他国のことは知らん」となれば、ロシアが周辺国への圧力を強めてネオ・ユーラシア主義を進めるための環境が整う。その意味で、今のところトランプ新政権はロシアにとってかなり「理想的」です。
ロシアの国営放送では最近、政治ディスカッション番組を通じ、ウクライナ問題についてかなり過激な議論が放映されているそうです。もう全面戦争すべきだとか、侵攻して消滅させてから領土をポーランドと分ければトランプも承認するだろうとか…。もちろんこれはプーチンによる観測気球でしょうが、ロシアがかなり強気になりつつあるのは間違いありません。
リベラルで多様な社会を目指した西側先進国の危機に乗じ、勢いづくプーチン。当分は “黒幕”として国際社会を牛耳ることになりそうです。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley Robertson Show』(block.fm)など