小池都知事も「想定を超える数値が出た」と表情をこわばらせた、豊洲市場の地下水モニタリング調査結果。移転の可否判断ばかりでなく、都知事と都自民による“都議会バトル”にも大きなインパクトを与えそうな情勢だ。水面下の攻防を追った―。
■「豊洲はもう終わりだね」
築地市場の豊洲移転に“黄信号”が点灯した。
9度目となる豊洲新市場の地下水モニタリング調査で、環境基準値の79倍ものベンゼンが検出されたのだ。そのほかにもヒ素が3.8倍、未検出が環境基準とされるシアンまでもが認められたというのだから穏やかではない。
環境省の職員がこう評価する。
「今後、再調査をして有害物質の数値がたとえ3分の1に下がったとしても、豊洲新市場で食品を扱うのは厳しいと言わざるをえませんね。今回検出された数値は、それほどリスキーなものなのです」
ショックを隠せないのは、豊洲への移転を支持してきた築地市場関係者だ。
「私の周りでも『豊洲はもう終わりだね』なんて声がチラホラ。移転したところで、世間のイメージは最悪でしょ? ただね、私なんか豊洲移転に備えて場内の店の権利使用料など、すでに2000万円ものお金を突っ込んでるわけ。いったい、どうしてくれるんだよ」(築地市場関連事業者等協議会の会員)
そして、都庁内では、すぐさま“ポスト豊洲”の検討に入ったという。そこで有力視されているのが、大田市場(大田区)だ。
もともと都庁内では、昨年秋以降、都内に11ヵ所ある中央卸売市場で最大の敷地面積を誇る大田市場に築地市場を移すプランの調査、試算が水面下で行なわれていた。
都庁・都市整備局のスタッフがこう明かす。
「今回の結果を受け、大田移転プランの検討が本格的に着手された形です。築地市場は老朽化が激しく、移転は待ったなし。そこでひとまず築地の機能の一部を大田市場に移し、当面をしのごうという計画です。一部機能移転なら、既存の空き倉庫などを利用して、すぐにでも営業できますし、“豊洲断念”で最終決着した場合の対応も早い。年間70億円を超えるという築地、豊洲両市場の維持費を最大10億円カットできるとの試算もあります。豊洲移転にこだわる都議会自民も今となっては反対できないでしょう」
なぜデータにここまで大きな開きがあるのか?
■「もはや都議会自民に勝ち目はない」
それにしても、過去8回のモニタリングではここまでの有害物質は検出されなかったのに、なぜ今回だけ異常な数値を示したのだろうか?
前出の環境省職員が話す。
「豊洲の地下水位は潮の干満に合わせて上下します。比重が重いため普段は地下深くに沈んでいる汚染物質ですが、大潮になると地下水とともに押し上げられ、地表に流出する傾向があるんです。過去8回の調査はそうした知識のない業者が行なったか、あるいは、知っていてわざと干潮時にデータを測定した可能性がある。干潮時なら汚染物質は沈んだままで、採取した地下水に混じる量も少なくなりますから」
こうした疑惑を受け、都議会では公明党、共産党などの議員を中心に、「過去8回の調査プロセスを検証すべき」という声がにわかに高まっている。公明党都議が言う。
「なぜデータにここまで大きな開きがあるのか? 都議会内に強い調査権限を持つ百条委員会を設置し、追及するつもりです。当然、そこでは『これまでモニタリング調査に関わった都職員や業者がある目的、つまり、豊洲移転に都合のよいデータを得ようと画策していたのではないか』という疑惑追及が行なわれることになるのではないでしょうか」
海千山千の小池知事がこの機を見逃すはずがない。想定外の結果にうろたえるどころか、過去の調査プロセス解明が、「(7月の)都議選の争点になる」とブチ上げたのだ。
都議会自民の元幹部議員が表情を曇らせる。
「小池知事の発言の陰に、彼女を熱心に応援する小泉純一郎元首相の存在があるようなんです。元首相は知事に『(9回目の調査結果のおかげで)よい争点ができたじゃないか。これをバネにして、都議選で都議会自民の連中の首をはねてしまえばいいんだ』とアドバイスしたらしいのです」
都議会自民に昔日の勢いはない
もし豊洲移転を都議選の争点に小池知事が攻勢に出た場合、“都議会のドン”こと内田茂都議率いる都議会自民の敗北は免れないと、この元幹部は嘆く。
「都議選は間違いなく、“小池劇場”になる。そうなれば、内田さんたちがいくら抵抗しても勝てっこない。事実、今回のモニタリング結果を知らされて、内田さんは青くなっていると聞いています」
豊洲新市場がある江東区の自民区議もこう心配する。
「2月に内田さんの地元、千代田区で区長選があるでしょう? 小池知事が推す石川雅己現区長の対抗馬として、内田さんが支援する与謝野 馨(かおる)元財務相のおいっ子の信氏が出馬することになったんですが、今回の結果はこの選挙にダメージを与えかねません。千代田区民は内田さんが豊洲移転を進めてきたことをよく知っている。異常値が測定されたことへの抗議として票が石川候補に流れれば、与謝野候補は落選。彼を支援した内田さんの権威も失墜します」
このため、戦々恐々の都議会自民内では内田都議に「小池擦り寄り」を勧める声しきりなのだという。
「都議会自民が小池知事と対立しているのは東京五輪、豊洲移転のふたつ。ただ、豊洲移転に関しては、今回の結果で自民がテクニカルKOを食らった形。もはや勝ち目はない。だったら、残る東京五輪での影響力を保持するためにも、ここは小池知事と是々非々の付き合いをすべきです。議会運営での協調も約束せざるをえないのではないかと。内田都議は不満でしょうが、ここは一歩引き下がって我慢してもらうほかありません」(自民党現職都議)
内田都議をはじめ、都議会自民に昔日の勢いはない。知事vs自民のバトルの行方はもはや、誰の目にも明らかになってきた。