文部科学省(以下、文科省)が、組織的に元幹部職員の天下りを斡旋(あっせん)していた!…という“何を今さら”なニュースで大騒ぎしている安倍内閣。その狙いは?
現役時代に「天下り規制」に取り組んだ元官僚の古賀茂明氏が、問題の本質を徹底解説!
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そもそも、天下りの本質は省庁やキャリア官僚が自己の権限を駆使して企業や業界団体になんらかの便宜を与え、その見返りとして退職した官僚OBに就職先を確保することだ。今回、やり玉に挙げられている文科省はもちろん、霞が関すべての官庁が手を染める構造的な悪習である。
天下りがもたらす弊害は大きい。まず、無駄な予算が増える。天下りポストはたいてい高給かつ閑職。ところが省庁は、そのくだらないポストのために無駄な組織を設立、維持し、予算をつける。言うまでもなく、その原資は国民の血税である。
省庁が天下り先と癒着するのも大問題だ。省庁は、天下り先である企業や業界組織、あるいは大学を守り、不適正な補助金を交付したり、国民の利益に反する規制を温存するなどの不都合が生じる。
つまり、天下りとは再就職をワイロ代わりにする反社会的行為だ。そんな悪習は根絶しないといけない。役人時代から、私はそう訴えてきた。
そんな私に「官僚制度の大改革をやる。手伝ってほしい」と、現参院議員の渡辺喜美氏から声がかかったのは2008年頃だった。当時、渡辺氏は安倍内閣、福田内閣の行革担当大臣として、「国家公務員制度改革基本法」の成立に執念を燃やしていた。私は古巣の経産省から国家公務員制度改革推進本部事務局に出向し、審議官として渡辺大臣の改革を支えることになった。
当時、公務員の天下り禁止を実現する制度設計が進んでいたのだが、やり切れなかったことがふたつある。
ひとつは省庁OBの天下り斡旋(アレンジ)禁止を実現できなかったこと。08年の天下り規制は事務次官や人事課長など、現職官僚による斡旋は禁止できたが、OBによるものまでは手が届かなかった。省庁からすれば、天下り斡旋は現職次官がやろうが、OB次官がやろうがどちらでもいい。退職者の再就職が実現すればOKで、天下り規制に大きな抜け穴ができてしまった。
次の“生け贄”になる省庁は?
もうひとつは違法な天下り斡旋を刑事罰の対象にできなかったことだ。現状では違法な斡旋をしても警察は捜査に動かず、省庁が独自に懲戒処分を下すだけで済む。処分は重くて3ヵ月の停職など、軽ければ書面による戒告だけで終わってしまうのである。
懲戒処分は事務次官、官房長、人事課などが行なう。しかし、天下りを斡旋するのもまた同じ顔ぶれなのだ。これでは、泥棒に「泥棒を捕まえろ」と要求するようなもの。天下りがなくなるはずもない。
この2点を盛り込めなかったのは財務省をリーダーとする霞が関、そしてその意をくんだ自民党のボス政治家の抵抗・圧力が強かったから。08年当時、こうした圧力をはね返す力が私たちにあれば、天下りをもっと実効的に規制できていたかもしれない。
■次の“生け贄”になる省庁はここ!
報道によれば、安倍政権は今回の文科省の不祥事を受け、全省庁を対象に違法な天下りがないか、調査を行なうという。だが、そもそも文科省が天下りの斡旋に手を染めていたのは、霞が関の官僚から見れば驚きでもなんでもない。それを今、白日の下に晒(さら)す目的とは?
注目すべきは安倍政権がすぐ文科省の処分に動いたという点だ。天下りは国民に評判が悪い。しかも今年は夏に都議選、秋以降には衆院選も予想される。だらだらと処分を延ばし、国会で野党から「天下りに甘い」と追及されると、選挙に悪影響が及びかねない。なので、国会の開始前に早期処分し、批判を極小化しようとしている。
特に今回は、次官を自主的にではあるが退職までさせた。かなりの危機感を持っているということだ。そうした官邸の意向は省庁もわかっている。各省庁は人身御供(ひとみごくう)として数件の天下り案件を差し出すだろう。
そこで注意したいのが、霞が関の盟主たる財務省と経産省の動向。どちらも政治力があるから、抵抗するか恭順の意を示すか、悩むところだ。
ただ、もし天下り案件を表に出すとしたら、経産省が先のような気がする。この省は他省に比べると仲間意識が薄くドライだからだ。しかも、今の官邸は今井尚哉(たかや)首席秘書官をはじめ、経産省出身の秘書官が仕切っている。その経産省が天下りで処分されれば、国民は「安倍首相は天下り根絶に本気だ」と評価する。省幹部は、それで官邸に恩を売れると計算するわけだ。
天下り根絶の手立ては?
一方の財務省は、経産省とは違って職員の結束が固い。身内をかばおうと、最後まで抵抗する可能性もある。ただ、財務省だけ抵抗すれば、官邸の恨みを買うのは必至だ。
最後に天下り根絶の手立てをいくつか示そう。まずはキャリア制度の改革が必要だ。
具体的には天下りが不要となるように、キャリアの昇進制度の再構築が必要だ。キャリア官僚が本当に優秀な人材なら、退職後の再就職に困らないはず。しかし、実際には優秀ではない人材が多いからこそ、天下りが必要悪になっている。
これを防ぐには課長級以上の職責の任用条件として、例えば「民間企業などで10年超活躍した実績があること」といった項目を設けるのも一考だ。民間企業で長く活躍した人材ならば、自力で再就職先を探せるだろう。
また、天下りの実態を内部告発できる窓口の整備も必要だ。「再就職等監視委員会」ではほとんど機能しない。日弁連(日本弁護士連合会)や民間オンブズマンなどに委託して、役所の外に安心して告発できる完全な第三者の窓口を作らなければならない。
もちろん、私が官僚時代にやり残した2点ーー官僚OBによる斡旋禁止、天下りへの刑事罰適用も欠かせない。今回の事件は天下り根絶の好機。事務次官の自主退職などで一件落着にしてはいけない。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)