『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン。個別の政策になると発言内容がブレまくるトランプ大統領。「トランプ政権の誕生は日本のチャンス」という言説に危うさを感じると語る。
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トランプ政権は日本にどんな影響を及ぼすのか?
いろいろな見立てがありますが、日本の一部論客(主に右派)から漏れ聞こえる希望的観測ーー「トランプ大統領の誕生は日本にとってチャンスだ」といった軽々しい言説には危うさを感じます。
特に首をかしげざるをえないのが、「中露分断による中国包囲網」というストーリー。トランプ政権とロシア・プーチン政権の急接近で中国とロシアの仲が分断され、アメリカ、ロシア、日本などで中国を包囲するのである、と。…これ、本気で言っているんでしょうか?
あらゆる国益が反するなか、ロシアとアメリカが結託できるという前提もおかしいし、米露の接近が、なぜ中露分断となるのかもわからない。加えて、トランプのおかげで日本とロシアの仲が改善するだとか、これを機に日米同盟を再解釈して自主防衛だ、などと妄想を膨らませている人もいる。こういった言説のベースにあるのは「敵の敵は友」という論理展開なのですが、国際社会はそんなに単純ではありません。どう考えても辻褄(つじつま)が合わない。
そもそも、ロシアと中国がこれまで一枚岩だったというのが事実誤認。また、仮にアメリカとロシアが“結託”といえるほど近づくなら、アメリカの他の同盟国が黙っていません。例えば、すでに報道されているレベルの話ですが、米露でインテリジェンスの機微に関わる情報(インテル)が共有されれば、イスラエルのインテルがイランに筒抜けになってしまう危険性がありますし、イギリスの情報機関が独自で行なっている対ロシアの諜報活動が無意味になってしまう可能性もある。
また、トランプ陣営が選挙戦でロシアの“協力”を得ていた可能性や、トランプ個人がロシア当局にスキャンダル情報を握られている可能性も指摘されている。さらに、日本もアメリカも経済面では中国の巨大市場に依存している。こういった多様な視点が、「米露接近→中国包囲網論」では完全に無視されています。
欧米の右派ポピュリストたちの根底には“白人至上主義思想”がある
今の国際情勢は、欧米各国の右派ポピュリストたちが、ロシアを蝶番(ちょうつがい)にして連携を夢見ているという奇妙な状況です。本来、ナショナリスト同士は自国の利益を主張してぶつかり合うはずですが、「インターナショナル・ナショナリズム」とでもいうべき矛盾をはらんだ“同床異夢の同盟”を模索しながら、イギリスのEU離脱やトランプ政権誕生といった“お祭り”の神輿(みこし)をかついで大騒ぎしているわけです(それを様々な方法でたきつけているのがプーチンです)。
結局、日本の一部の右派論客も、こういったお祭り騒ぎに勇んで参加したいんだと思います。国家あっての国民なんだ、みんな伝統を大事にしろ、中国はとにかくけしからん…といった乱暴な自説を、この機に乗じて言えるだけ言ってしまおうということかもしれません。
しかし大前提として、今の欧米の右派ポピュリストたちの根底には“白人至上主義思想”があります。日本はそこから明らかに漏れていますが、大丈夫ですか? こんなお花畑全開の話に冷や水を浴びせるのが、本来の保守なのではないですか?
「トランプ大統領就任は日本のチャンス」という言説にはくれぐれも気をつけましょう。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など