核弾頭は世界になんと1万5千発以上もある。各国の保有数は? (クリックで拡大)

第2次世界大戦末期に人類が生んだ核兵器は、進化を遂げながら拡散し、禁断の兵器として世界のパワーバランスを決定づけてきた。その“核の脅威”が今さらに増して、破滅へのスイッチに指が置かれようとしているようだ…。(前回参照記事⇒『トランプとプーチ ンが誘うタブーなき「核兵器新時代」の全貌』)

そこで、その認識をあらためて深めるべく、約70年の歴史を振り返ってみよう。

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ドイツ生まれの天才物理学者アルベルト・アインシュタインが、核エネルギーの基礎理論となる「特殊相対性理論」を発表したのは1905年。この理論を基に、39年にドイツでウランによる核分裂反応が発見されると、アメリカ、イギリス、ソ連(現ロシア)といった列強各国は次々と核開発に乗り出した。

最初に結実したのはアメリカのマンハッタン計画。45年7月16日、実験場となったニューメキシコ州の荒れ地に史上初めて核の炎が上がり、翌8月の6日と9日には広島と長崎の上空で原子爆弾が炸裂した。

戦後、アメリカは核の独占をもくろんだが、49年にソ連が核実験に成功。以後イギリス、フランス、イスラエル、中国…と、各国が次々と核兵器を手にした。現在に至るまで、一度手にした核兵器を放棄した国は南アフリカ(90年)だけだ。

また、地図には載っていないが、ほかにも“潜在的核保有国”がある。例えば、サウジアラビアなど中東の湾岸スンニ派諸国にはパキスタンからいつでも核兵器を供給できるし、イランも実質的には“ほぼ保有国”といえ、そこから中東シーア派諸国へも供給ルートが延びている。さらに、実はアジアでも韓国、台湾、ミャンマーが過去に核開発を行なっている。

核を運ぶ手段も大きく進化している。当初は爆撃機から爆弾を落とす方法しかなかったが、ドイツが第2次世界大戦に投入した世界初の弾道ミサイル「V2ロケット」が米ソの手に渡ると、大型・精密化して核爆弾と組み合わせ、現在のような核ミサイルが誕生した。

そして、もうひとつの“革命”が、核技術を動力に生かした原子力潜水艦の登場だ。通常動力と違って原子炉は空気を必要とせず、数ヵ月もの間、潜水し続けられる。この原潜に核ミサイルを搭載することで敵に発見されにくく、たとえ自国本土が焼き尽くされても報復戦力として生き残る“リーサルウエポン(最終兵器)”になるのだ。

中国は“メガトン級弾頭”を配備

■「今すぐ撃てる核弾頭」は約4千発。中国は“メガトン級弾頭”を配備

各国の核弾頭保有数(クリックで拡大)

東西冷戦のピーク時(約7万発)から比べれば約2割まで減ったとはいえ、今も世界には約1万5千発の核弾頭が存在する。このうち命令を受けて即時発射(あるいは投下)できるのは、米露仏英4ヵ国の計4116発。中印など5ヵ国は、平時はミサイルから取り外して保管し、緊張が高まれば発射準備する態勢だ。米露にも同様に取り外した状態の弾頭が計5354発、さらにほぼ同数の解体待ちの弾頭がある。

陸海空それぞれの核兵器は運用目的も違う。陸上から発射するICBMは、偵察衛星などによりすでに位置がバレているため、敵のミサイル基地や軍施設を狙う先制攻撃が主目的。

一方、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)は敵の第一撃を逃れ、報復として核ミサイルを撃ち込めるので、抑止力としての側面が強い。航空機搭載型の多くは巡航ミサイルの弾頭として配備され、突発的に出現した目標に対応したり、相手の周辺をうろついて威嚇したりするなど、ICBMやSLBMとは違った柔軟な運用ができる。

戦略核の弾頭の威力は、かつては500kt(キロトン)~50Mt(メガトン)と大威力だったが、誘導精度が上がった現在では100kt~300ktが大半。中国だけは今も“メガトン級弾頭”を配備しているが、これは誘導技術の低さを危害半径の大きさでカバーしているためだ。

冷戦終結後の削減期、今世紀初頭からの現状維持期を経て、トランプとプーチンは世界を再び核拡大期へと引き戻してしまうのだろうか?

(取材・文/世良光弘)