米空軍のB-52戦闘機からのMOPの投下実験の写真(実戦で搭載される爆撃機はB-2のみとされる)

トランプ米大統領の就任で、米露両国の強権型リーダーが並び立った。彼らに共通するのは「力こそすべて」という思想、そして、その力を裏づけるための核戦力の増強を目論んでいることだ。

現状のパワーバランスを大きく変えかねない新兵器の開発と、核使用も辞さない“瀬戸際外交”が新たな恐怖の幕を開ける!

(前編記事⇒『トランプとプーチンが誘う、タブーなき「核兵器新時代」の全貌を解説』

■北朝鮮指導部を貫通核爆弾で爆殺?

ただし、こうした新兵器の開発競争以上に懸念されていることがある。それは、核の力を誇示するトランプやプーチンが、実際に核兵器の使用に踏み切るのではないか―というシナリオだ。

国際ジャーナリストの河合洋一郎氏は、大統領選でのトランプの発言に注目する。

「トランプは選挙期間中、『勝つアメリカを復活させるため、世界最高のネゴシエーターたちを投入する』と繰り返しました。これは、トランプ政権の外交交渉が“瀬戸際外交”になる可能性が高いことを意味します。トランプ自身は不動産業で培った交渉能力に自信を持っているのでしょうが、交渉とは、相手がタフならギリギリのブラフ(ハッタリ、威嚇)のぶつけ合いになるもの。そして外交交渉の失敗は、ヘタをすれば核戦争にまで発展しかねません。

それに加えて、アメリカの内部事情もあります。現在の米軍の核兵器システムは2020年代に耐用年数が切れ、更新が始まりますが、その費用はなんと30年で1兆ドル。この予算確保のために、昨今の“使えない核兵器”という印象を払拭(ふっしょく)したい軍や政権内のタカ派が、『どこかで一発使っておきたい』と考えても不思議ではありません

では、実際に核兵器を使うとなれば、その標的はどこになるのか?

トランプはイランの核開発を猛批判しているが、中東での核使用は石油戦争を引き起こす可能性があり、あまりにもハイリスク。となれば、最も「使いやすい」のは―そう、北朝鮮だ。

金正恩(キム・ジョンウン)政権は米本土を核攻撃できる大陸間弾道ミサイルの開発を急いでおり、これが完成すると、アメリカは厄介な“爆弾”を東アジアに抱えることになる。そのため、北朝鮮の背後にいる中国への牽制(けんせい)も含めて、「早めに潰しておこう」という判断が働く可能性は十分にあるのだ。

「米軍が北朝鮮を核攻撃するなら、使われるのは地中深くまで貫通する前述の核弾頭型バンカーバスターです。これを同時に複数撃ち込んで、地下司令部や隠蔽(いんぺい)された核関連施設を一気に破壊しつつ、あわよくば国家指導部の抹殺も狙うでしょう」

ただし、アメリカが“禁断の核兵器”を使用するなら、もちろんプーチンも黙ってはいないはずだ。前出の飯柴氏はこう語る。

トランプ大統領は国際社会の核の均衡を再構築したい。2大核保有国のもう一方であるロシアのプーチン大統領との今後の関係を考えれば、ロシアが戦術核を一発使用することも場合によっては“黙認”するのではないでしょうか」

ロシアが核を使用する場所は、シリア和平交渉の主導権を握るべく、同国内のIS(イスラム国)を含む反政府勢力支配地域を攻撃するというのがひとつの選択肢。あるいは、ウクライナの背後にいる欧州各国を黙らせるために、ウクライナ東部のドンバス地方での使用も考えられる。

「米中核戦争」恐怖のシナリオ

■「米中核戦争」恐怖のシナリオ

ここまでの想定は、米露という大国が、小国や武装組織に対して核を使用するというものだった。しかし、最も恐ろしいのは、こうして国際社会が緊迫してきたときに、大国同士の核戦争の引き金が引かれることだ。

前出の飯柴氏は、ひとつの可能性として「米中間の核使用」のシナリオをこう語る。

「例えば、必要な近代化や改修が間に合っていない米海軍の原潜が、核弾頭搭載のSLBMを装備した状態で東シナ海で故障し、座礁したとします。中国海軍は間違いなく、『人道的措置』と称してこの原潜を確保しに来るでしょう

これは決してありえない想定ではない。昨年12月、中国海軍は南シナ海で、米海軍の無人水中探査機を奪取した“前科”があるからだ。飯柴氏が続ける。

「米海軍の原潜の情報は、中国海軍にとって宝の山です。原潜が接岸させられた中国海軍の基地には、中国全土から核ミサイルや原潜の専門家、海軍エンジニアなどが緊急招集され、徹底的にリバースエンジニアリング(設計・構造・動作などの分析)が行なわれるはずです」

もし米海軍の戦略原潜が中国軍に奪われた場合、米政府はどんな手を使ってでも機密を守ろうとするはずだ

当然、米政府は返還を要求しますが、中国側がそれに応じるわけがない。すると、米側はどう出るだろうか?

「参考になるのが1999年5月7日、旧ユーゴスラビアの首都ベオグラードの中国大使館を、米空軍のB-2爆撃機が『誤って爆撃』し、29人の死傷者が出た事件です。実はこのとき、中国大使館には、ユーゴ上空で撃墜された米空軍のステルス戦闘機F-117のエンジンが持ち込まれていました。つまり、軍の機密を守るためなら、アメリカは“誤爆のふり”だろうがなんだろうが、どんな手でも使うということです。

もし米海軍の原潜が奪われた場合、トランプ大統領は迷わず最新鋭のステルス爆撃機に核弾頭搭載の精密誘導ミサイルを載せて出撃させるでしょう。これが発射されれば、原潜本体はもちろん、中国の海軍幹部、技術者たちも木端微塵(こっぱみじん)に吹き飛び、一帯は放射能汚染で接近不可能になる。表向きの発表は、『原潜に搭載されていた核ミサイルがなんらかの理由で爆発した不幸な事故』といったところでしょうか」(飯柴氏)

米露がともに核軍備の増強に舵(かじ)を切りそうなトランプ・プーチン時代。ヘタをすれば、「法と秩序(ロー・アンド・オーダー)の回復」というトランプの狙いとは裏腹に、疑心暗鬼が広がって核保有国がドミノ式に増える危険性もある(参照記事⇒『現在、核弾頭は世界に1万5千発以上! 破滅へのスイッチが押されようとしている?』。一寸先は闇の緊迫した世界情勢の幕開けだ。

(取材・文/小峯隆生 世良光弘 写真/U.S.NAVY U.S.AirForce DoD)