1月の地下水モニタリング調査で201地点のうち72地点で高い数値の有害物質が出た豊洲市場。現在、再調査を実施中だ 1月の地下水モニタリング調査で201地点のうち72地点で高い数値の有害物質が出た豊洲市場。現在、再調査を実施中だ

1月14日に公表された、豊洲市場の地下水モニタリング調査結果。そこで出た異常値によって、いよいよ移転に黄信号がともった感もあるが、現在、移転賛成派の猛烈な巻き返し作戦が展開中なのだという。

そのトホホな中身と、小池都知事が出した“ある決断”とは…!?

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1月の地下水モニタリング調査で、環境基準を大きく上回る有害物質が検出された豊洲市場。

発がん性物質としても知られるベンゼンが基準値の79倍、さらには毒性の強いヒ素、シアンまでもが検出された異常事態を受け、1月末から再調査がスタートしている。豊洲移転の可否を決める、最終的な判断材料にするためだ。

だが、都知事周辺からは「すでに豊洲移転はなくなった」という声がしきりだ。知事のブレーンのひとりが言う。

「再調査でまた悪いデータが出たら、豊洲移転はもう無理。潮の干満により、土壌の有害物質の数値が乱高下するとの報告も受けている。豊洲は食品を扱う場所としては不適格な土地だったんです。まずは移転を中止し、その後はすでに投入された移転費用6千億円の使途が適切だったかどうか、『都民ファースト』の観点からメスを入れる。それこそが私たち、チーム小池がなすべき仕事でしょう」

では、移転中止の決定はいつになるのか? 全国紙の都政担当記者がこうささやく。

「調査データが公表された直後の第4回『小池塾』で、知事が『豊洲移転問題を都民に知ってもらい、時には判断に参加してもらう』と発言しました。これは知事が豊洲移転の可否を7月の都議選の争点にして、自民都連とガチンコ勝負に出るシナリオを描いているということ。

知事の頭の中では、豊洲移転中止はとっくに既定路線になっているはず。早ければ7月の都議選前、遅くとも9月の都議会には移転中止が公表されるでしょう」

とはいえ、豊洲移転は“都議会のドン”こと内田茂都議のかけ声のもと、自民都連が総力を挙げて進めてきた一大利権プロジェクトだ。そうあっさりと諦めるわけがない。

どこかうつろな移転賛成派の主張

移転賛成派都議のひとりはこう反発する。

「知事周辺の言動は明らかに新市場に風評被害を与えている。内田さんも怒り心頭で『知事に真っ向から抗議することも考えるべき』と周囲に檄を飛ばしています。

もし知事が移転撤回に都合のよいデータを得るために、高額なモニタリング調査費用(過去9回で65億3千万円)をさらに膨らませるようなら、経済観念のないダメ知事として、都議会で総攻撃することもありえます!」

今度の再調査の費用は約1千万円と、これまでの調査と比べものにならないくらい安くなっているのだが…。さらに豊洲新市場が立地する江東区ではこんな動きも。

「風評被害で不利益を被っている区民からの意見を集約して、2月中旬をメドに都議会に陳情するつもりです。それだけではありません。今後、小池都政の行きすぎを監視するオンブズマン会議を区内に立ち上げることも考えています」(江東区の自民区議)

■「スパイがいて情報が漏れている」

だが、都庁周辺を取材してみると、豊洲移転を支持する声はすでにかなり小さくなっていた。前出の知事ブレーンもこううなずく。

「現在、都庁内の移転賛成派は3割ほど。残り7割は移転反対、もしくは知事の決定に粛々と従うという層です」

移転賛成派は明らかに劣勢なのだ。それをわかっているせいか、移転賛成派の主張はどこかうつろな印象だ。

「豊洲移転は内田都議や山﨑(孝明)江東区長が入念に経済合理性を調べてゴーサインを出したプロジェクトだから、いまさら止められません。それに豊洲は安全なんです。なぜなら、安全基準を満たさない部分は改善が可能だからです。

えっ、具体的な改善案? それは専門家に任せるしかないですが、例えば、地下コンクリートの厚さを倍以上にして有害物質を遮断するとか、特殊な薬品で土の成分を変えるとか、いろいろありますよ、たぶん…」(賛成派の都市整備局職員)

「(知事への)総攻撃もありうる」(前出・賛成派都議)と“徹底抗戦”の構えを見せていた割に、賛成派のアクションは存外セコい。

賛成派が「悪あがき」する大きな理由

ある都庁職員が証言する。

「私の後輩が豊洲のアセスメントの解析事務をやっているんですが、職場に賛成派の都議と古参都庁職員がやって来て、前回のモニタリングの手順を事細かにチェックしたそうです。段取りに不備を見つけて、『有害物質の検出データは無効』と主張したかったんでしょうが、一切の落ち度がなかったとわかるや否や、席を蹴るように部屋から出ていったと聞いています(苦笑)」

別の都庁職員も言う。

「過去9回分の調査データがファイル棚から消えて騒ぎになったことも。みんなで手分けして探したら、まったく関係のない事業資料ファイルの棚に紛れ込んでいました。誰かが意図的にデータを隠したのは明らか。おそらく賛成派の仕業で間違いないだろうと都庁内で噂になりました」

まるで子供の反抗だ。こうなると「悪あがき」と呼ぶほかはない。そんな「悪あがき」は都庁外にも及んでいる。再調査を担当する事業者の候補になった、地質環境アセスメント専門家がこうあきれる。

「候補になった途端、匿名電話がひっきりなしにかかってきて、『検査費目当てで都に売り込みしてるだろ!』と怒鳴り散らすんです。スパムメールや白紙ファクスも大量に届いて。それを都庁の調査チームに相談したら、『どうやらウチに移転賛成派のスパイがいて、情報が漏れているので電話はマズい。連絡は私用のGmailに頼む』と。そこで所轄の警察へ届け出たことを調査チーム内で共有してもらうよう伝えたら、いやがらせはパッタリやみました」

賛成派が「悪あがき」する大きな理由を都庁・市場移転チームの担当者が説明する。

「豊洲市場移転を当て込んで、豊洲周辺にマンションを購入した都庁職員が結構いるんです。ほかにも口利きができる都議たちの仲介を受け、市場近くで親戚に店をオープンさせようと出資した職員もいます。彼らが移転中止に必死に抵抗するのはメンツの問題だけじゃない。豊洲新市場がポシャると、経済的に大損しかねないためなんです」

実際、豊洲エリアのマンション価格が急落しているという話もあるようだ。前出の江東区議は「移転問題でイメージが悪化し、昨年6千万円で購入したマンションが半値以下になってしまったケースもあります」と言う。

賛成派に迫る“粛清人事”

■賛成派に迫る“粛清人事”

豊洲移転実現へ最後の抵抗を続ける都庁内の賛成派に、小池知事はどう対処するのだろうか?

「知事は年度末となる3月の人事異動でケリをつけるつもり」と断言するのは都庁・市場移転チームの幹部だ。

「今回の異動は粛清人事になる。知事は豊洲移転に賛成の職員を左遷することになるでしょう。通常、左遷される職員は次の職場や天下り先を探す必要があるので、早めに人事通告が来る。しかし、今回は2月になってもそういった話は聞かない。3月末ギリギリに粛清人事が断行されるサインです」

別の都庁職員もこれには同意する。

「ここ最近、左遷人事の噂で持ちきりです。移転賛成派と反対派が入り乱れて仕事をすると、足の引っ張り合いになり、業務が混乱する。それを避けるため、豊洲移転中止に反対してきた職員、特に上級職は知事の非協力者として排除されるようなのです」

事実、小池知事は着々と次の一手を打っている。

「小池サイドによる自民都連の切り崩しが進んでいます。すでにドン内田を見限り、距離を置く自民都議の数は12人にもなっています。この12人だけではない。ドン内田に近い某都議でさえ、『自民の公認をもらってから、小池派へ流れたい』と漏らすほど。小池勝利の流れは決まった感じです」(知事支持派の都議)

自民都連の有力都議OBもこうため息をつく。

「市場の再利用法の提示、ゼネコン業者の損失補填を上手にやらないと、移転撤回はつまずく。しかし、知事は用意周到。再利用はすでに大手通販会社などに倉庫としての利用を打診していると聞くし、ゼネコンへの補填については、以前から提唱している電柱の地中化工事や“ポスト豊洲”の候補地として挙げられる大田市場の拡張工事を発注して埋め合わせするプランを温めているらしい。自民都連は小池知事には勝てません」

実際、小池知事は先日編成が終わった平成29年度予算案のなかで、無電柱化の推進費として251億円という規模の予算を計上したばかり。

移転賛成派の「悪あがき」は不発に終わりそうだ。