『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン。
奴隷制には反対していたが、今では存在自体が白人至上主義者のアイコンとなっている、南部連合の軍司令官を務めたロバート・E・リー(リー将軍)について語る。
* * *
19世紀のアメリカ南北戦争は、現在に続く北部=合衆国と、奴隷制存続を訴える南部=連合国が激突した内戦です。あれから約150年たった昨年の米大統領選で、ドナルド・トランプは米社会の“分断”を煽(あお)って勝利を収めましたが、その深刻な余波が訪れ始めています。
当時、南部連合の軍司令官を務めたロバート・E・リーという人物がいます。彼は南北戦争以前には合衆国軍の大佐でしたが、郷里バージニアが合衆国脱退を決めると(奴隷制には反対しながらも)強い郷土愛から南軍の指揮官となり、北軍を最後まで苦しめました。「リー将軍」の愛称で今も多くのアメリカ人、特に南部の白人から尊敬されています。
地元バージニアなど南部諸州には彼の名を冠した公園や銅像・記念碑などが無数にありますが、近年はそれを撤去する動きが広がっています。リー将軍を“顕彰”することは人種差別を助長しているのではないか、というのがその理由です。
大きな契機となったのは、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で発生した銃乱射事件でした。襲撃犯の男が白人至上主義者で、南軍の象徴である南部連合旗を“信奉”していたことが判明し、各地の南部連合旗撤去と並行して、「リー将軍をたたえること」に対する反対運動も拡大したのです。
しかし、白人至上主義者や一部の保守層はこの動きに危機感を抱き、「黒人による歴史修正だ」と反発しました。“被害者たる黒人の目を通じた歴史”しか語ることが許されないのはおかしい―と。
もちろん、歴史に対する姿勢として、現在の価値観に合うものしか残さないというのは過剰です。白人であれ黒人であれ、大人が子供に「過去にはこういうことがあった」と語り継ぐことも必要でしょう。ただ、リー将軍や南部連合旗の存在が白人至上主義者の“よりどころ”となっているのも事実で、リー将軍をたたえる年に一度のパレードには、ネオナチや南軍兵士のコスプレをした連中も集まってくる。こうした“差別の源泉”を断つための対処療法として、仕方なくリー将軍の痕跡を撤去しているという事情もあるのです。
リー将軍像を取り戻すと公約を掲げている
最近も、バージニア州シャーロッツビルの市議会でリー将軍の銅像撤去が決定されたのですが、その過程で象徴的な動きがありました。トランプ大統領を後押しする極右メディア「ブライトバート・ニュース」が、撤去賛成派の黒人議員をひどい人格攻撃で執拗(しつよう)に非難。今年行なわれる同州知事選に出馬予定の、“ミニ・トランプ”とも呼ばれる泡沫(ほうまつ)候補もこれに便乗し、リー将軍像を取り戻すとの公約を掲げているのです。
彼はつい先日も、「俺はリー将軍をたたえるために『リー公園』に行く」とわざわざ宣言し、撤去賛成派のデモ隊との衝突をスマホ動画で生中継。「こんな罵声(ばせい)を浴びせるヤツらから、民主主義を守らなければいけない」と、もっともらしく語りかけるフェイスブックの投稿には、保守層から「いいね!」の嵐……。
トランプ大統領やブライトバート・ニュースが罪深いのは、「アメリカ人の本音」を盾に人間の差別意識をあぶり出し、社会の分断を深めたこと。これはそう簡単に元に戻せるものではありませんが、どう落とし前をつけるつもりでしょうか?
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など