100軒以上ある店舗のうち、約8割が営業停止処分を受ける中国のロッテマート。損害は2億ドルともいわれる。※写真はイメージです

「こんなはずでは……」

ロッテの経営幹部が頭を抱えたのは4月9日のことだった。ロッテと取引のある経営コンサルタントが証言する。

「この日、韓国大統領選で支持率トップを独走していた文在寅(ムン・ジェイン)候補(共に民主党)を抑え、安哲秀(アン・チョルス)候補(国民の党)が1位に躍り出たんです。文氏32.7%、安氏は36.8%でした。すると、それを知ったロッテ関係者が突然、『ああ、ダメだ』と髪の毛をかきむしり始めたんです。びっくりしました」

それまで安候補の支持率は10%前後だったから、大逆転と言っていい。それにしても、なぜ、ロッテ関係者が韓国大統領選の支持率に一喜一憂するのか? 韓国紙の在京特派員が説明する。

「ロッテにとって、文候補にはなんとしても当選してもらわねばならないからです。文候補は米軍の最新鋭ミサイル迎撃システム、THAAD(サード)の韓国配備に慎重な姿勢を見せていた。一方の安氏は北朝鮮の核ミサイルに対抗するために絶対必要という立場。安氏が当選してTHAAD配備が進めば、ロッテは大損害を受けてしまうのです」

話は今年2月28日にさかのぼる。この日、ロッテは慶尚北道星州(キョンサンブクトソンジュ)郡に所有する自社ゴルフ場を韓国政府に譲渡する決定をした。

「ゴルフ場はTHAADの配備用地になる予定です。すると、THAAD配備に反対してきた中国が猛烈なロッテ叩きを始めたんです」(前出・在京特派員)

ロッテは90年代から中国で大型スーパーなどを運営しており、その投資額は1兆円を超えるとされている。

「ところが、中国はTHAAD用地を提供したロッテはけしからんと、国内のロッテマートを消防法違反などで次々と営業停止処分にしてしまったんです。4月現在で約115店中8割近くが休店となり、2億ドルの損害が発生したと聞いています」(前出・経営コンサルタント)

そんなロッテにとって、最後の望みが文候補だった。大統領に当選すれば、THAAD配備が見直されるかもしれない。そうなれば、中国当局の怒りも解け、ビジネスが再開できるというわけだ。

「しかし、安氏が支持率トップになり、その目算が狂ってきた。しかも、頼みの文候補も支持率回復のため、THAAD容認を口にするようになってきた。THAAD配備を支持する保守層の票を取り込もうとしているのです」(前出・在京特派員)

つまり、両候補のどちらが大統領になってもTHAADは配備されるってこと?

中国のロッテバッシングは当分、終わりそうにない。