安倍政権内でアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を導入すべし、との声が高まっている。北朝鮮のミサイルの脅威に対抗するためには、発射されたミサイルを迎撃する「PAC3」だけではダメで、発射拠点を先に破壊する「敵基地攻撃能力」が欠かせないというのだ。
トマホークの最大射程は3000km。超低空を飛ぶので、敵レーダーにも捕捉されにくい。これを配備すれば、北朝鮮は報復を恐れ、日本へのミサイル発射を思いとどまる、ということか。だが、武器輸出に詳しい東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者は首を横に振る。
「今の日本にとって、トマホークは実用に堪えない、コケ脅しにすぎません」
どういうこと?
「敵基地攻撃にはトマホークをどこに発射するのか、精度の高い情報が必要です。しかし、日本はそのための早期警戒衛星を持っていません。既存の偵察衛星(現在2基を保有)で画像を取得できても、例えば写っているものがミサイル発射による煙なのか、火事の煙なのかといった判断を即座にできる、米軍が持っているようなインテリジェンス能力の蓄積がない。つまり、トマホークを保有しても使いこなせない可能性が大なのです」(望月氏)
軍事ジャーナリストの世良光弘氏もこう言う。
「北朝鮮のミサイルは大型トレーラーなどの移動式発射台を用いるため、攻撃精度の高いトマホークでも命中はなかなか難しい。また、トマホークはマッハ0.8(約1000km/h)とミサイルとしては速くなく、目標に着弾するまで30~40分はかかる。その途中で北朝鮮の対空砲に撃ち落とされる可能性もあります」
前出の望月氏が続ける。
「朝鮮半島近海にいる米空母『カールビンソン』には敵レーダーを電子妨害するEA-18Gグローラーや“空飛ぶレーダー基地”と呼ばれる早期警戒機E-2Cなど、70機が搭載されています。トマホークで確実に敵基地を叩こうとすれば、このレベルの空母も必要となってくるのです」
ハードルはこれだけではない。ひとつは日本の防衛理念である「専守防衛」との矛盾。トマホーク保有を提言した自民党「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」は敵基地“反撃”能力という表現で、あくまでも専守防衛の範囲内であることを強調するが、国会での追及は避けられないだろう。
また、中国、韓国などが日本への警戒感を高め、北東アジアで新たな軍拡競争がスタートするリスクもある。安倍政権はこれだけのハードルを覚悟で、本当にトマホークを導入しようとするのか? 今後の動向に注目だ。