鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が、北朝鮮の度重なる弾道ミサイル発射実験について分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

安保理やアメリカの警告を無視して、4月には3回も弾道ミサイルの発射実験を行なった北朝鮮だが、結果はすべて失敗に終わっている。

しかし、これは単なる“発射失敗”ではないと、佐藤優氏は分析する。背景には水面下で行なわれる米朝のサイバー戦の影が――。今、北朝鮮で何が起こっているのか?

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鈴木 金正恩(キム・ジョンウン)委員長は国際社会の声を無視して、ミサイル発射や軍事演習を強行する姿勢を強めています。今回は、この緊迫する北朝鮮情勢について、佐藤さんの分析をお聞きしたいと思います。

佐藤 北朝鮮情勢はいろいろと報道されていますが、結論から言えばミサイルが韓国や日本に飛んでくることはしばらくないでしょう。

4月16日に北朝鮮東岸から弾道ミサイルが発射されました。これに関して、『朝日新聞デジタル』から引用します。「米ホワイトハウス当局者は16日、北朝鮮が発射したのは『中距離弾道ミサイル』だったと明らかにした。今月5日に日本海に向けて弾道ミサイルを撃ったのと同じ海軍基地から発射され、4~5秒後に爆発したという。

このホワイトハウス当局者は、今回の発射が失敗に終わったことから、『米国として国力を費やす必要はない』として、軍事行動などを取る考えがないことを強調した」

これ、変ですよね。アメリカは「弾道ミサイルを撃つな」と北朝鮮に対してたびたび警鐘を鳴らしてきました。それにもかかわらず北朝鮮は失敗したとはいえ、ミサイルを発射している。これはアメリカの面子(メンツ)を潰す行為ですから、普通であればトランプが怒って追加的な制裁を加えてもおかしくないような事態です。しかしアメリカは静観している。対応があまりにも緩い。

この理由は、一連の騒動が単なる北朝鮮ミサイルの発射失敗ではなく、アメリカのサイバー攻撃によって起こされたものだからだとみています。北朝鮮のミサイルシステムにアメリカが侵入させたマルウェア(=有害なソフトウェア)が作動して、ミサイルを発射直後に爆発させる。こうした作戦が水面下で成功しているから、アメリカは北朝鮮にわざわざ大金をかけて制裁する必要がないと考えているのでしょう。

北朝鮮にとって、ミサイルをサイバー攻撃されることほど恐ろしい話はないです。せっかく造った核弾頭が発射数秒後に自国の真上で爆発する。最悪の場合、国土の20分の1が廃墟になりますからね。北朝鮮は簡単にミサイルを撃てなくなりますよ。

鈴木 しかし、私が4月に訪露した際にお会いしたアンドレイ・フョードル世論調査所長が「北朝鮮のハッカーは、ロシアを超える能力を持っている」と話していました。北朝鮮のミサイルシステムへのサイバー攻撃は可能なのでしょうか?

外部の学者経由でミサイルシステムにウイルスを送ればいい

佐藤 フョードルさんの情報はいつも誇張があるので、額面どおりに受け取ることはできません。ただ、確かに北朝鮮のサイバーは強いです。北朝鮮では発電所などの施設を基本的に人力と機械で動かしています。そもそもコンピューターをほとんど使っていないので、システムに侵入する余地がないんですよ。

ただ、やり方はいくつかあります。核技術やミサイル技術を含め、科学技術を一定のレベルで維持するためには、毎回国際学会に出席し最新の情報を学び続けないといけません。しかし、北朝鮮の学者が国際学会に出席するのはチェックが厳しく、難しい。だから北朝鮮は中立国やフランス、北欧などの学者に委託して学会に出席させ、後でデータだけもらうというやり方を取ることがあります。

なので、北朝鮮のミサイルシステムをハッキングしたい場合は、北朝鮮のミサイル開発と関わりがある外部の学者経由でミサイルシステムにウイルスを送ればいい。アメリカの情報機関なら、どの学者が北朝鮮とつながっているかはわかっていますしね。

では具体的にどうするか? 大規模な国際学会であれば、会場のホテルと学者の部屋は1年前から押さえられているものです。そこで、情報機関は諜報(ちょうほう)員をそのホテルの清掃係に就職させるんですよ。

学者はノートパソコンを持参しますが、そのパソコンを常時携帯する人は少ない。食事やホテルのバーに出かけるときは部屋に置いていきます。その隙に清掃係に扮(ふん)した諜報員が部屋に入れば、5分足らずでマルウェアを仕込める。

ただ、なかには警戒心が強く、パソコンを常に持ち歩く学者もいます。その場合は、諜報機関の息のかかった学者を使って、ターゲットの学者に「一杯、奢(おご)るよ」と声をかけさせる。そして、ターゲットの飲む酒の中に、摂取してから3時間後くらいに効き目が出る遅効性の睡眠導入剤を入れるんです。

そして薬の効果で学者が深い眠りに落ちている隙に、清掃係に扮した諜報員が部屋に侵入し、パソコンにマルウェアを仕掛ける。そして、その学者が北朝鮮側にデータを渡せば、マルウェアが北朝鮮のシステムに侵入できるというわけです。こうした手法は、過去に諜報活動で実際に使われていたものです。

7年前、イラン国内の核燃料施設でウラン濃縮用遠心分離機がサイバー攻撃によって破壊された際も、これと似た手口がアメリカとイスラエルによって使われていたと言われています。北朝鮮のサイバー部隊がいくら強力でも、ヒューマンエラーにつけ込む方法はいくらでもあるんです。

★後編⇒米の北朝鮮攻撃はある? 韓国のアメリカ人たちが急に逃げだしたら大変なことが起きる

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決を目指し奔走している。4月30日に公民権が回復し、7年ぶりの政界復帰を目指す

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は5月25日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ