「一帯一路 国際協力フォーラム」を北京で取材した、「フェニックステレビ」東京支局長の李氏。日本政府の姿勢に変化を感じるという 「一帯一路 国際協力フォーラム」を北京で取材した、「フェニックステレビ」東京支局長の李氏。日本政府の姿勢に変化を感じるという

5月14、15の両日、中国が推進する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路 国際協力フォーラム」が北京で開催された。

日本からは二階俊博幹事長をはじめ自民党幹部や経団連の榊原定征(さだゆき)会長らが参加したが、同日に北朝鮮のミサイル発射などもあり、日本ではあまり大きく報道されなかった。

そもそも一帯一路とはなんなのか? 中国の狙い、そして日本との関わりは? 「週プレ外国人記者クラブ」第78回は、香港に拠点を置く放送局「フェニックステレビ」東京支局長で、このフォーラムを現地取材した李淼(リ・ミャオ)氏に話を聞いた――。

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─李さんはこのフォーラムを北京で取材して、どのような印象を持ちましたか?

 今回のフォーラムに中国政府はまさに国家の威信を賭けて臨んでいたということを強く感じました。私は北京を何度も訪れていますが、あんな青空を見たことはありません。現地では「一帯一路ブルー」と表現されたほどで、フォーラム期間中の交通規制が徹底されたことの成果と言えるでしょう。

交通規制以外にも、例えば関係者が宿泊する施設で使用される食材や調理法も政府が指定したものに限定されていました。私も中国人ですが、「中国という国が本気で何かをやる時には徹底的にやるのだな」という印象を改めて抱いたほどです。

─「シルクロード経済圏構想」とも呼ばれていますが、そもそも「一帯一路」の言葉の意味は?

 一帯一路の「一帯」は中国から中央アジア、ヨーロッパまで続く「陸」の経済圏、「一路」は中国から東南アジア、南アジア、中東、東アフリカ、ヨーロッパまでを結ぶ「海」の経済圏を意味します。このふたつの地域でインフラ整備や貿易を促進していくというのが主な目的です。

かつてのシルクロードの終着点は日本の奈良だったと言われていますが、こういった経済圏を現代において再整備しようという構想が一帯一路です。フォーラムには29ヵ国の首脳のほか、130の国や地域から約1500人が参加しました。

―それほど大規模な国際会議だったのに日本の報道では小さい扱いでした。「G7から参加した首脳はイタリアだけだった」とか、フォーラムが開幕した5月14日に北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を行なったことで「中国のメンツが潰された」とかネガティブな論調での報道のほうが目立っていた印象です。

 そういった日本メディアの論調はなんとなく想像がつきます。一帯一路はAIIB(アジアインフラ投資銀行)から続く流れの一環ですが、このAIIBに「なぜ日本は参加しないのか?」ということについても、日本の記者たちが政府の担当者に質問する光景を私は見たことがありません。一帯一路やAIIBに関して、中国の影響力拡大を日本が警戒しているのは事実でしょう。日本の世論の中にも「中国アレルギー」のようなものがあると感じます。

しかし、それは必ずしも中国を客観的に見ているとは言えないのではないでしょうか。もし、日本のメディアがそういった背景を忖度(そんたく)した結果、一帯一路の報道を小さく扱っていたのだとしたら、それはとても残念なことです。

山本幸三地方創生大臣が5月23日の閣議後に、一帯一路について「中国の個別利益なら問題だ」といった発言をしています。ここにも、中国に対する警戒感があることが窺えますが、孫子の言葉にこういうものがあります。

「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」

つまり、中国を敵視するにしても、中国の動向を知ることは日本の国益にとって必要なことではないでしょうか? 今回の一帯一路フォーラムにはベトナムのクアン国家主席、フィリピンのドゥテルテ大統領も出席していたことを日本はもっと注視すべきだと思います。

「二階俊博氏は、中国では好感度の高い政治家」

─ベトナムもフィリピンも、南シナ海の問題などで中国とは日本以上に緊張関係が続いている国ですね。それらの国々もトップが出席するほど一帯一路を重視している、と。

 そうです。今回、日本がフォーラムに参加した理由のひとつには、アメリカが態度を変えて参加を決めたからということもあるかもしれませんが、中国の報道では「日本の姿勢が変化してきた」という論調が見られます。

実際、私が4月下旬に今回の訪中団の団長に決まった二階俊博氏を単独インタビューした時、二階氏は「中国の一帯一路には全力で協力します。一帯一路がこれだけ多くの国の支持を得たことに日本も敬意を表します」と仰っていました。二階氏の個人的な意見も含まれているとの見方もあったようですが、50名を超える大訪問団を率いる団長として参加したわけですから、やはりそこには日本の姿勢の大きな変化があるのだと思います。

そして今回、安倍首相が習近平国家主席に宛てた親書も「一帯一路は日本のハイレベルなインフラ整備の方針とも合致するもので、相互補完的に協力することはできる」といった、濃い内容のものだったと伝えられています。

―李さんはかねてから、日中関係がここまで悪くなった要因のひとつにパイプ役となるキーマンがいなくなったことを指摘していますが、二階氏は中国ではどのように評価されているのでしょう?

 二階氏は中国では好感度の高い政治家です。2008年の四川大地震の際、二階氏が日帰りの強硬スケジュールでチャーター機を飛ばして現地に救援物資を届けてくれたことを中国国民は忘れていません。私はその時、中国人記者として唯一、同行取材をして単独インタビューもしましたが、とても人情味のある政治家という印象を受けました。

今回の一帯一路フォーラムでは、その二階氏が「日本もAIIBに参加する可能性がある」と発言したことが中国では報道されています。また、安倍首相は「日本独自の外交戦略」、つまり対米追従だけではない新たな外交路線を示唆する発言をしばしばしています。

こういった日本政府の姿勢の変化がメディアにおいて過小評価されているのだとしたら、それは不思議なことだし残念に思いますね。

(取材・文/田中茂朗)

●李淼(リ・ミャオ) 中国吉林省出身。1997年に来日し、慶應大学大学院に入学。故小島朋之教授のもとで国際関係論を学ぶ。2007年にフェニックステレビの東京支局を立ち上げ支局長に就任。日本の情報、特に外交・安全保障の問題を中心に精力的な報道を続ける