「トランプ政権の『麻薬との戦争』の方針が、思った以上の逆風を生んで命取りになる可能性も否定できない」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ政権の命取りになり得る「麻薬との戦争」について語る!

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ロシアとの癒着疑惑に揺れるトランプ政権の舵(かじ)取りが、ますますおかしくなっています。今回の“問題人物”はジェフ・セッションズ司法長官。彼が口にした「麻薬との戦争」という方針に対して、ほうぼうから疑問の声が上がっているのです。

以前も書いたとおり、「麻薬との戦争」には意味がありません――というより、人類はすでに「麻薬との戦争」に敗れています。過去何十年と各国で行なわれてきた麻薬犯罪の厳罰化は、刑務所人口を増大させるばかりで、麻薬の蔓延(まんえん)を止められなかった。アメリカに限らず、世界から麻薬を撲滅させることは絶対にできないと多くの専門家もWHO(世界保健機関)も認めています。

だからこそ現在では麻薬対策の潮流が大きく変化し、大麻に加えて軽度の麻薬使用についても非犯罪化やハームリダクション(使用者の健康被害の軽減)へと重心が移っている。戦争ではなく「共生」を模索するフェーズに入ったわけです。

この流れを受けたオバマ前大統領は、在任中に軽度の麻薬犯罪に対する刑罰を軽減し、連邦刑務所の収容人員総数は14%も減少しました。しかし、トランプ政権のセッションズ長官はそのガイドラインを破棄し、司法省の検察官に対して「すべての麻薬犯罪に最も厳しい求刑を下す」よう指示したのです。

おそらくこの方針は、「諸悪の根源である麻薬をアメリカに運んでいるのはメキシコからの不法移民だ」と、トランプ政権支持層のナショナリズムを煽(あお)るためのポピュリズム政策の一環でしょう。しかしこれはリベラル陣営のみならず、トランプ政権を支持してきた保守陣営からも大きな反発を受ける可能性が非常に高い“危険な賭け”です。

リベラル陣営はすでに「レイシズム(人種差別)的なやり方だ」と大批判を展開しています。アメリカでは、軽度の麻薬犯罪で捕まるのは多くが黒人など非白人で、どういうわけか白人の逮捕者の割合はかなり少ない。

60%のアメリカ人は大麻の完全合法化に賛成

ここには現場の警察官など当局の差別意識がにじみ出ているといわれていますが、セッションズ長官の方針はこの「差別的な状況」を助長するだけだ、というわけです。

また、共和党内のリバタリアン系議員などは、連邦政府が大麻問題に首を突っ込むことを危惧(きぐ)しています(セッションズ長官は筋金入りの大麻反対論者です)。各州の州法で続々と大麻解禁が決まりつつあるところを、万が一連邦政府が覆すようなことがあれば、「小さな政府」論者が最も嫌う個人の権利への介入そのものだからです。

直近のCBSの統計によると、60%のアメリカ人は大麻の完全合法化に賛成し、医療用途に限れば実に88%が賛成しています。すでに全人口の3分の2にあたる約2億人が、大麻がなんらかの形で解禁された州で日常生活を送っており、「大麻はさして問題ない」ということを肌感覚で理解しているのです。

1970年代に共和党ニクソン政権が「麻薬との戦争」を宣言してから、はや四十数年。当時はヒッピーの若者たちを理解できない保守層の支持が期待できたわけですが、現代においてはあまりにも時代遅れの政策です。トランプ政権のこの方針が、思った以上の逆風を生んで命取りになる可能性も否定できません。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム?あなたの時間?』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など