鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
原子力空母艦隊を朝鮮半島に派遣するなど、北朝鮮に対抗姿勢を示してきたアメリカ。しかし裏では米朝首脳同士の直接対話への強い意欲を見せており、その姿勢は北朝鮮がミサイルを発射しても揺らいでいない。
果たしてアメリカの狙いとは? そして米朝の接近で日本はどうなるのだろうか?
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鈴木 国際社会の反発を無視して、北朝鮮は依然ミサイル実験を続けています。緊張状態が続いているように見えますが、朝鮮半島情勢とアメリカの動きについて、佐藤さんはどのように見ていますか?
佐藤 日本経済新聞には米国の情報通と非常に親しい記者がいるのでアメリカ関係の記事はいつもチェックしているんですが、5月17日に「北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すればアメリカは4つのノーを約束する」という記事が出ていました。
その「4つのノー」の具体的な内容とは、(1)北朝鮮の体制変更は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)38度線(南北軍事境界線)を越えて北進しない、(4)朝鮮半島の統一を急がない、というもの。
これは要するに、核兵器と(長距離)弾道ミサイルをなくしさえすれば、北朝鮮国内で金正恩政権が人民の弾圧政策をしようが、海外で人を暗殺しようが、自由にしていいよというトランプのメッセージです。
ここで注意したいのは、トランプの得意技である“取引”が、すでに始まっているということ。この4つのノーで、トランプは北朝鮮に対して駆け引きの第一手を提示しているんです。
ただ現状、北朝鮮側は否定的な姿勢を貫いています。なのでアメリカは今後北朝鮮に対して、次の一手として何かしらの譲歩をしていく可能性がある。
では、具体的にどういう譲歩をするか? アメリカが一番懸念しているのは、北朝鮮がアメリカにも届きうるICBM(大陸間弾道ミサイル)を手にすること。逆に言えば、中距離弾道ミサイルなら最悪持っていても構わないと考えている。
これはパキスタンとアメリカの関係にも表れていて、アメリカはパキスタンの核兵器開発について、表立って認めてはいないけど黙認している。その理由は、パキスタンはアメリカに届くミサイルを持ってないからなんですよ。
つまりアメリカは、自国に届かないミサイルだけだったら、持ってもいいよ、勝手にしてくれという姿勢なんです。だから北朝鮮に対しても、長距離弾道ミサイル以外だったら開発していても仕方ないという方向で今後交渉するし、北朝鮮も核を持ち続けることができるならと、話を受けてしまう可能性がある。
鈴木 その場合、日本政府はどのように動くと考えられますか?
佐藤 まず、非核三原則の「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の3つ目の項目を完全に外すでしょうね。核の傘で北朝鮮のミサイルに対抗するわけです。
しかしそうすると、日本は米軍の核ミサイルを装備した原子力艦隊に常時守ってもらう態勢をつくることになる。日本政府は「日米同盟の深化」って言うかもしれないけど、対米従属がいっそう拡大する方向になると思いますよ。
解決策は日本のサイバー戦の技術力を上げること
■日本は核武装した原子力潜水艦を開発する
佐藤 しかし、日本にとってイヤなシナリオはほかにもあります。5月22日付の朝日新聞が掲載していたウォール・ストリート・ジャーナルのジェラルド・ベーカー編集局長のインタビューにはこう書かれていました。
「サンフランシスコが核兵器で壊滅させられるかもしれないのに、米国が日本や韓国を防衛する見込みはまずない」
つまり北朝鮮が、アメリカ西海岸を射程圏内に含むICBMの開発に成功すれば、アメリカは日本を平気で見放すという見方です。
そうすると日本は自力で北朝鮮の核に対する防護策を考えなければならなくなる。北朝鮮がICBMの開発に成功したら、NPT(核拡散防止条約)も有名無実化して、世界各国で核を持つ国が出てくるだろうから、日本も核武装を始める日がくるかもしれない。
じゃあ、どういった方向で武装するか?
北朝鮮はノドン(準中距離弾道ミサイル)を120発持っていますが、日本の国土は狭いので、40発の核弾頭でほぼ全域が破壊されてしまいます。核ミサイル基地を日本国内の陸地に造ったところで、反撃する前に国土すべてを基地もろとも破壊されてしまうわけです。
なので有効な核の抑止力を担保するためには、1年くらい連続潜航が可能で、かつ核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を造って、常に海中から攻撃できる態勢を整えておかなければいけない。海上自衛隊が今保有しているそうりゅう型潜水艦は数週間しか連続潜航できないので、新しく原子力潜水艦を開発することになるでしょうね。
さらにそこに核ミサイルを搭載するとなると、核弾頭と水中発射可能な弾道ミサイルの開発も必要になってくる。これをゼロから造るには、とんでもない金がかかる。
となるとGDPに占める防衛費は、今は1%だけど、3~5%に膨れ上がり、相当長い期間軍事支出を極端に増やさないといけなくなりますよ。
ただつらいのが、北朝鮮が核やミサイルの開発を放棄したとしても、それはそれで生まれてくる問題もある。朝鮮半島の緊張が解決したら、影を潜めていた日米貿易摩擦が表面化してくるでしょう。もう、日本にとってはどっちに転んでも悪いことしかない。
鈴木 まさに八方ふさがりであると。解決策はないのでしょうか?
佐藤 時間はかかりますが、日本のサイバー戦の技術力を上げることだと思います。北朝鮮のミサイルシステムに侵入して、ミサイルが発射された瞬間に破壊できるくらいまでサイバー戦能力を高めれば、北朝鮮の攻撃を心配することはない。日本はそっちの方向で頑張るべきだと思います。
★後編⇒北方領土交渉の見通しは?「今、確実に北方四島の空気感は変わってきている」
(取材・文/小峯隆生 カメラマン/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。4月30日にはついに公民権が回復。7年ぶりの政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
●「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどが集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は6月22日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ