2014年6月末の突然の“国家樹立宣言”から3年。
一時はシリア、イラクの北部一帯にすさまじい勢いで広がったIS(イスラム国)の領土は、アメリカ中心の有志連合とその支援を受けるクルド人部隊、ロシア軍とその支援を受けるシリア軍、イラク軍、イラン革命防衛隊らの軍事作戦により次々と奪還され、もはや陥落は時間の問題とみられている。
だが、問題はその先だ。ISの過激思想はすでに中東のみならずアフリカ、ヨーロッパ、そしてアジアにまで広がっており、テロはやむ気配を見せない。かつて人類が多くの感染症の封じ込めに失敗し、世界規模の爆発的流行(パンデミック)が起きたように、「本国」を失ったISがむしろアメーバのように一気に拡散していく可能性もあるという。
6月16日、ロシア国防省は空爆によりISの指導者アブ・バクル・アル=バグダディを殺害した可能性があると発表した。これはいったいどんな意味を持つのか?
中東の事情に詳しい国際ジャーナリストの河合洋一郎氏はこう解説する。
「ISの国家樹立宣言の際、カリフ・イブラヒムを名乗ったバグダディは、すべてのスンニ派イスラム教徒にバイア(臣従の誓い)を立てることを要求し、世界の多くのジハード組織がそれにならいました。バイアはカリフとの間に交わされる誓いですから、もしバグダディの死が事実なら、新たなカリフがいなければISは組織的に立ち行かなくなってしまいます。
かつてアフガニスタンの反政府勢力タリバンが、総帥であるオマル師の死を二年間隠したことで求心力を失ったことを考えても、ISは二代目カリフの“襲名”をきちんとやろうと考えるはずです」
しかし、ISはすでに初代カリフが襲名宣言を行なったイラク・モスルや、首都として定めたシリア・ラッカの地を失う寸前だ。次なる本拠地は、どこに置かれるのだろうか?
元外務省主任分析官の佐藤優氏はこう予測する。
「ISが今狙っている“逃げ先”の筆頭候補はエジプトでしょう。エジプトは19世紀にイスラム教徒とキリスト教徒が協力し、トルコから独立できたという経緯があり、人口の約9%はコプト派と呼ばれるキリスト教徒。最近、このコプト派を狙ったテロが頻発しており、実行犯は隣国のリビアで訓練を受けたIS系のテロリストとみられているのです」
佐藤氏はじめ専門家によれば、やがてエジプト、そして日本の目と鼻の先にある東南アジアのフィリピンに「ネオIS」が誕生――そんなシナリオが現実のものになりつつあるという。
戦慄のシミュレーションは発売中の『週刊プレイボーイ』29号『次はアジアだ!! アメーバ状に広がる「ネオIS」 世界テロ・パンデミックの恐怖』にて特集。そちらもお読みください。
(取材・文/小峯隆生 写真/時事通信社)