「安倍首相が『頭にきて』、獣医学部の全国展開をぶち上げたのなら、あまりに軽薄すぎる」と批判する古賀茂明氏 「安倍首相が『頭にきて』、獣医学部の全国展開をぶち上げたのなら、あまりに軽薄すぎる」と批判する古賀茂明氏

安倍首相の突然の「獣医学部を全国展開」宣言が波紋を呼んでいる。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、強気の発言をした安倍首相の胸中を推測する!

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地域に関係なく、2校でも3校でも新設を認める――国家戦略特区での獣医学部新設を、加計(かけ)学園のほかにも全国的に展開するとの意向を示した首相にブーイングの声が上がっている。

当然だろう。これまで首相は「獣医学部の新設は諮問(しもん)会議で論議している。総理大臣が指示したからといって、それで決まるようなものではない」と釈明してきた。

なのに、今回は加計学園1校どころか、全国的に新設を認める発言をしたのだ。これでは、首相は加計学園が選ばれる根拠となった「広域的に獣医学部の存在しない地域に限り」という行政の合意事項をスルーし、自らの意向ですべてを決定していると、言っているのも同然だ。

なぜ、こんなムチャクチャを言いだしたのか? 首相の胸中を知るヒントとなるのが、高橋洋一氏、原英史氏、長谷川幸洋(ゆきひろ)氏といった官僚OBや報道人の最近の言動だ。加計学園問題で、彼らは申し合わせたかのように、“文科省・前川前次官叩き”の言論を打ち出している。

前川氏がトップだった頃の文科省は獣医師利権と癒着し、天下り規制違反を行なうとんでもない役所で、内閣府との議論に負けると、「総理のご意向文書」なる怪文書まがいのものまでリークして悪あがきする抵抗勢力となった。彼らと闘い、岩盤規制に穴を開けることこそが正義なのだ、と。

ここからはあくまでも私の想像である。

首相はこのストーリーを妄信して、獣医学部の全国展開をぶち上げたのではないか。1校の新設でも抵抗が強かった。全国的に解禁となれば文科省や獣医師会から猛烈な反対が起き、そうなれば、文科省が抵抗勢力だと証明できる。結果、安倍政権のイメージはぐっと上がると首相は計算、いや妄想したのではないか? 「正義の味方、安倍首相」という夢の演出だ。

国民がこの議論に乗ってくれれば、争点は規制緩和が良いか悪いかという点に絞られる。

しかし、加計学園疑惑の本筋はなぜ京都産業大学が特区認定の選考レースに参加できなかったのかという点だ。疑われているのは官邸が首相のお友達がいる加計学園をえこひいきした結果、京産大が外されたのではないかということ。これを解明せずに、規制緩和に後ろ向きとして文科省叩きをするのでは、争点ずらし以外の何物でもない。

「あまりにも批判が続くから、頭にきて言ったんだ」

この疑念を晴らすためには、まずは加計学園の獣医学部新設認定を白紙に戻さなければならない。その上で、政権自らが閣議決定した新獣医学部新設のための「石破4条件」を含めて基本方針を見直し、それに沿って全国公募を行ない、新設校を選び直すことである。

獣医学部の全国展開を表明した理由について、安倍首相はこう周辺に語ったと、ニュース番組の『真相報道 バンキシャ!』(日本テレビ系)が伝えている。

「あまりにも批判が続くから、頭にきて言ったんだ」

確かに、国家戦略特区は首相が主導する特区である。だから最終的な決定権限は首相にある。国会に選ばれた内閣総理大臣なら、理性的な判断を下せると信頼してのことだ。

だが、もし本当に安倍首相が「頭にきて」、獣医学部の全国展開をぶち上げたのなら、あまりに軽薄すぎる。「頭にきて」いるのは首相ではない。国民のほうだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中