「著名人に限らず、ソーシャルメディアには好き勝手な正義を振りかざす“ファッション反体制”があふれています」と指摘するモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ソーシャルメディア時代の“言論の自由”について語る!

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1989年、チェコスロバキアで「ビロード革命(Velvet Revolution)」を成し遂げた民主化運動の中心だったヴァーツラフ・ハヴェル(後の大統領)によると、革命にはある音楽が大きな影響を与えたそうです―64年にアメリカで結成された「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)」。なぜ、アメリカの前衛的ロックバンドが、遠い東欧の国の民主化と関係があるのでしょうか。

60年代当時、チェコスロバキアでは共産体制からの解放運動「プラハの春」が盛り上がりを見せるも、68年に旧ソ連を中心とした軍事介入で鎮圧されると、言論は統制され、以前にも増して自由を奪われることになりました。そんな折、30代前半の劇作家だったハヴェルは、自身の戯曲がニューヨークで上演されることになり渡米。母国で禁止されていたロックのレコードを買い漁(あさ)り、隠し持ったまま帰国します。

こうして“密輸”されたレコードは、瞬く間にコピーされ首都プラハのミュージシャンたちに浸透。なかでも彼らが心を揺さぶられ、こぞってカバーしたのがヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲でした。

米ニューヨークにおいてさえ“前衛”であった音楽・表現を、厳しい言論統制下の社会でプレイする。そこには計り知れない自由への希求、そして人々のパワーがあったことでしょう。多くのアーティストが逮捕されても、演奏活動は地下で繰り広げられたといいます。

そして77年、同国で人権擁護を掲げる反体制派運動「憲章77」が誕生。リーダーを務めたのがハヴェルでした。彼が持ち込んだ自由を希求するロックが、若者の行動を促し、12年後に民主化を実現したのです。

…僕が現代日本のアーティストや文学者の「反体制発言」に軽さを感じるのは、こういうものと比較してしまうからかもしれません。

欧米には、自由で豊かな社会で好き勝手に暮らしながら、その社会の権力者や体制側をくさすセレブリティがたくさんいます。そんな人々を揶揄(やゆ)する「シャンパン・ソーシャリスト」という言葉がありますが、日本にもそういう著名人は少なくない。

本当に人々の自由が侵害されている海外の国々に目を向けることもなく、「体制を叩く」ことだけが目的化した人たち。社会的弱者を救済しようと口では言いつつ、自らの行動や存在そのものが弱者を押さえ込んでいることには無頓着な人たち。

また著名人に限らず、ソーシャルメディアには好き勝手な正義を振りかざす“ファッション反体制”があふれています。彼らは「言いたいことが言えない世の中になった」「みんながギスギスしている」などと気安く言いますが、それは誰もが言いたい放題言えるようになった結果、誰もが批判を食らうようになったという社会の変化でしかありません。政府が規制しているわけでも、圧力を加えているわけでもない。みんなの自由が逆流しているだけです。

もちろん、日本人は反権力をやめろと言いたいわけではありません。ぼく個人としても、過去の歴史を鑑(かんが)みて、いかに言論の自由がもろいものかを痛感している。だからこそ自分の言説がなるべく広く、かつ深く届くように、まずは魅力的な発言をしようと心がけている次第です。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など