アメリカ独立記念日の7月4日、北朝鮮は新型ミサイル「火星14」の発射実験を行なった。
ミサイルは山なりのロフテッド軌道で高度2500km以上に達し、約40分後に発射地点から約930km離れた秋田県沖約300kmの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。
同日、朝鮮中央テレビは史上3度目の「特別重大報道」を放送し、「ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射に成功した」と宣言。翌日には、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が党機関紙でこうコメントした。
「(アメリカは)われわれからの“贈り物”が気に食わないだろうが、今後も大小の贈り物を頻繁に贈ろう」
これまで北朝鮮が発射してきた各種のミサイルは、日本やグアムを射程に収める一方、太平洋を横断して米本土に届くだけの能力はなかった。ところが、今回の「火星14」の発射実験成功はアメリカにも深刻な影を落としている。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう分析する。
「今回のミサイルは液体燃料を使った2段式。ノズルの形状から見て、5月14日に発射した中距離弾道ミサイル『火星12』の技術を転用し、射程を伸ばしたものです。推定される最大飛距離は6000kmから6700km。アメリカが“レッドライン”とする米本土西海岸のサンフランシスコ(約9000km)までは届かないものの、北米大陸北西端の米アラスカ州は射程内となる計算です」
飛距離だけでいえば、北朝鮮は過去にも射程1万kmに達する「テポドン2改」を発射しているが、これはあくまでも“観測衛星打ち上げ”と称したもので、兵器として運用するためのさまざまなハードルをクリアしていなかった。核弾頭の運搬能力、すぐに発射できる即応性、車両や潜水艦など敵に探知されにくい場所から発射できる能力、目標へ向けて飛行する正確性……。今回の「火星14」は、すでにそうした条件の多くを満たしつつあるようだ。
注目は、弾頭部が燃え尽きないための大気圏再突入技術だが、これについても北朝鮮側は「大成功」と発表した。前出の黒井氏はこう語る。
「ICBMはマッハ20から24で再突入し、温度は6000℃から7000℃に達する。今回の『火星14』からは再突入時の耐熱データをしっかり取っているでしょうし、それ以外にもさまざまな弾道ミサイルの発射実験からデータを蓄積しているはずです」
昨年8月に北朝鮮から韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使によれば、「金正恩の目標は今年末から来年初頭に(米本土に届く)ICBMを完成させること」だという。
ともあれ、「火星14」の発射で、ボールは北朝鮮からアメリカに投げられたといえる。米本土と陸続きのアラスカが射程に入った今、これ以上の開発を止めるためにどんな対抗手段に出るのか?
とはいえ、選択肢はそう多くない。中国に北朝鮮をコントロールさせる目論見(もくろみ)は空振り続きだし、米軍による弾道ミサイル迎撃実験などで強硬姿勢を見せても“こけおどし”にしか映らないだろう。
やはりトランプ政権は、韓国や日本にも多くの犠牲が予想される「軍事オプション=北朝鮮への直接攻撃」に踏み切らざるをえなくなるかもしれない。Xデーがいよいよ見えてきた―。
(写真/AFP=時事)