なぜ日本の外交はまくいかないのだろうか?
進展が見えない北方領土交渉に解決の糸口さえつかめずに停滞している拉致(らち)問題。そして韓国の文在寅新大統領には従軍慰安婦問題に関して、好き放題言われっ放し。
こうした歯がゆい現状を打開する方法を、鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が対談講演会「東京大地塾」にて語った。
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鈴木 今日は佐藤さんに日本を取り巻く外交問題についてお話を伺おうと思います。まず5月に韓国で文在寅(ムン・ジェイン)氏が大統領に就任しましたが、現在の日韓関係をどのように見ていますか?
佐藤 今、従軍慰安婦問題を頻繁に取り上げている文大統領にとって本当に関心があるのは日本と韓国の間にある歴史問題ではなく、韓国の内政事情なんですよ。
文大統領としては、自分の権力基盤が維持できるならば朴槿恵(パク・クネ)前大統領が結んだ慰安婦問題に関する日韓合意を継承したいと考えているし、日韓合意をほごにしないと韓国の民意が収まらないならば、ほごにする。
現状、韓国では国民の反感を買って失脚した朴槿恵前大統領の一件があるから文大統領としては「自分は前大統領とは違うんだぞ」と示すためだけに慰安婦問題を過激に取り上げているわけです。
さらに言えば彼には韓国の内政しか見えていないから、日本政府が入っていける余地が極めて少ない。
従来の国際社会のルールでは、国内政治のために他国を巻き込むというのはタブーだったのですが、文政権はそのルールを無視しています。
そして、そうした自分の権力を維持するために外交問題を必要以上に巻き込んでいくやり方は、韓国に限った話ではなく国際的にもよく見られるようになっているんです。
例えば、アメリカ。化学兵器を使用したとされるアサド政権への対抗措置として4月にアメリカ軍がシリアで行なったトマホーク巡航ミサイルによる大規模な爆撃作戦も文大統領のやり方と通ずる部分があります。
トランプ大統領もアサド政権がどんなことをしているかなんて本当は見ていないんです。ただ単純に「俺は、弱腰だったオバマとは違うぞ」というメッセージを国内に向けて発信したかっただけなんですよね。
鈴木 そうした状況のなかで日本にはどのような影響が出てくると考えられますか?
佐藤 韓国に関していえば、内政重視の外交によって日本が振り回されるので、両国の関係はどんどん悪い方向に進んでいくでしょうね。
今後は戦時中の徴用工(日本軍が労務動員した朝鮮人労働者)の像を釜山総領事館とソウル大使館前に建てるなんていう話が出てくる可能性もある。日本が何もしなくても韓国国内の政治が落ち着くまでは日韓の外交問題が増えるのは確実です。
★後編⇒進展のない北方領土交渉に佐藤優が苦言「外務省官僚は本気で現場に飛び込め」
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代からの長年の悲願である北方領土問題の解決に向けて、日々奔走している。また現在、7年ぶりの政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどが集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は7月27日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ