なぜ日本の外交はまくいかないのだろうか?
進展が見えない北方領土交渉に解決の糸口さえつかめずに停滞している拉致問題。そして韓国の文在寅新大統領には従軍慰安婦問題に関して好き放題言われっ放し。
こうした歯がゆい現状を打開する方法を前編記事に続き、鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が対談講演会「東京大地塾」にて語った。
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佐藤 そうした国際情勢において今、日本の外交力が試されているんです。しかし、外務省はあまりうまくやれていない状況ですね。6月18、19日に計画されていた飛行機での元島民たちによる北方領土墓参も対応が甘かった。
鈴木 18日に私も出発予定地だった根室の中標津(なかしべつ)空港にいたのですが、結局濃霧の影響で飛行機を飛ばすことはできませんでした。
佐藤 この計画は「天候が悪かったので仕方なかった」で終わっていいような問題ではないんです。霧が晴れないなら、霧をなんとかしてなくせばよかったんですよ。だってロシアは天候を変えられるんだから。ロシア戦略防空軍に上空から吸湿性粒子を投下してもらえば、霧や雨雲をなくすことができるんです。
以前、私もロシアが国策で天候を変える様子を目の当たりにしました。1994年にアントニオ猪木さんとクレムリンを訪れていたときのことです。赤の広場でバスケットボールの親善試合が行なわれる予定だったのですが、大雨が降ると予報が出ていた。そのとき、鈴木先生のご友人のタルピシェフ・スポーツ担当観光大臣が、戦略防空軍に「雨をやませてくれないか」と電話で一報を入れて戦略防空軍を派遣させ、見事雨を回避したんです。
こうした選択肢があるにもかかわらず、今回、外務省はなぜか動かなかった。つまり悪天候という事態に臨機応変に対応する柔軟性が足りていないんです。
また私が外務省にいた頃、ロシア政府が北方四島の国境警備隊に「日本の漁船が領海内に入った際、ロシア側が停船命令を出したにもかかわらず逃げたら撃て」との命令を出したことがありました。
ただ、漁師にとって魚はお金と一緒なわけです。あとちょっとのところに魚群がいるとなると、ついロシア側が主張する領海内に入ってしまう漁船もある。もしくはまったく意図していなくても潮の流れが速くてうっかり領海内に入ってしまうこともある。これでは悪意のない漁師の方がロシアの国境警備隊に銃撃されかねない。尊い人命が失われるのだけは避けたい。そこでわれわれはどうしたか?
北方領土で国境の最前線を守っているロシア国境警備隊の連中と外務省の北方領土問題担当者たちとで、赤坂のラウンジバーを借りて宴会をしたんです。当然、ロシア側の人たちが警戒することが予想されたので、警戒を解くためにわれわれはロシア語のカラオケを準備したんです。でも、赤坂のスナックでロシア語に対応したカラオケを探してみたものの全然見つからなくて。
それで結局、モスクワの闇市に行かないと見つからないという情報をつかんだ私は、カラオケを入手するためにモスクワに出張したんですよ。そして、闇市で怪しいおじちゃんと交渉して、なんとかカラオケを入手したんです。
問題を解決するためには、敵地に飛び込んでいかないと
さらにロシア国境警備隊の友人に国境警備隊長が今欲しがっているものを調べてもらって、ラジコンカーとか赤ん坊の紙おむつを大量に買い込んでそれを鈴木先生からのお土産として持っていった。しかも飲み会でも国境警備隊の幹部が、ウオッカをなみなみとついだコップに勲章を入れて渡してきて「これを一気に飲み干して、勲章だけを吐き出せ」と無理難題を押しつけてきたりしてね。
でも、もちろんそれを全部やった。お土産も渡して、ロシア軍歌のカラオケもみんなで歌って、最終的にはすごく盛り上がったんですよ。
そうしたら、そこにいたロシア側の若いやつが「もう銃撃できないよな、相手の顔がこうもわかっちまうと」と言い始めた。そして最後には国境警備隊長が「俺がいる間はどんなことがあっても絶対に国境付近の日本船は銃撃させない。俺たちロシア人は約束を守る」と言ってくれたんですよね。もちろん彼の在任中、その約束は守られた。
このように現地で相手と顔を合わせて両者の信頼関係をつくって、その上で柔軟に外交するのが重要なんですよ。外交は現場の人間のダイナミズムで動いている。今の外務省のような、机の上で決まったことだけをこなす無気力なお役所仕事的なやり方ではうまくいきませんよ。
鈴木 かつて「日本人とロシア人の友好の家」(通称“ムネオハウス”)を国後島(くなしりとう)に造った目的も、有事の際に対応できる外務省職員を北方四島内に常駐させておくためでした。
佐藤 通訳できる人だけを置いてもだめなんですよね、その場で判断ができないから。
鈴木 そして現場で決着をつけられるようにすることは相手との信頼関係の構築にもつながりますからね。
佐藤 逆に言えば、現場で臨機応変に対応できる人がいないことは外交において非常に大きな問題なんです。これは対ロシア、アメリカ、韓国との外交だけではなくて、長年解決できていない北朝鮮の日本人拉致問題、核ミサイル問題についてもいえることです。
どんな困難な状況でも、相手がどんな政権でも、現場単位で地道に交渉しなければ事態を進めることはできない。一日も早く問題を解決するためには、敵地に飛び込んでいかないといけないと私は思っています。今の外務省は本気で問題に取り組むつもりなら、なぜそうしないのかという感じですね。
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代からの長年の悲願である北方領土問題の解決に向けて、日々奔走している。また現在、7年ぶりの政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどが集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は7月27日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ