6月19日、海上自衛隊のヘリ空母「いずも」はシンガポールのチャンギ軍港沖に停泊していた。
筆者は港から通船(つうせん)に乗っていずもを目指したが、波が高いため接舷(せつげん)できず、いずもから小型の作業艇が発艦し、迎えに来てくれた。こうして4泊5日の同乗取材はスタートした。
いずもには海自の乗員に加え、日ASEAN(東南アジア諸国連合)乗艦協力プログラムの一環としてシンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、タイ、ブルネイの各海軍士官、そして内陸国ラオスの陸軍士官が乗艦していた。
筆者は彼らから、南シナ海における中国の脅威をどう感じているか聞きたかった。しかし、記者会見だろうが日々の雑談だろうが、彼らに中国に関する質問をぶつけても「私はコメントしません」と言うばかり。逆にその統制ぶりから、海自や各国海軍がいかに中国軍を意識しているか、ひしひしと感じられた――。
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2015年3月の就役以来、これが初の国外長期航海となるいずもは、護衛艦「さざなみ」と共に今年5月1日に神奈川県横須賀(よこすか)を出航。台湾-フィリピン間のバシー海峡を抜け、中国海軍がわがもの顔で活動する南シナ海に入ると、シンガポール、ベトナム、フィリピンに寄港しながら、各地で米海軍はじめ各国海軍との合同訓練や人道支援プログラムに参加してきた。
また、筆者が4泊5日の同乗取材を終えた後も、いずもはインド洋へ向かいインドやスリランカに寄港。両国海軍と交流を深め、大規模な国際演習にも参加している。
いずもに限らず、海自の艦隊が南シナ海、インド洋をこれだけの長期間航海するのは、おそらく史上初めてのことだ。もちろん、その目的は「対中国」。南シナ海にいくつもの“人工島”を建設して軍事拠点とするなど、ますます膨張する中国海軍に対応するには、各国が協力するしかない――その意志を見せつけるための長期航海というわけだ。
ちなみに、普通これだけの長期航行には必ず燃料などを積んだ補給艦が随伴する。今回それがない理由は報道されていないが、実は、いずもは米海軍第七艦隊の補給艦から燃料などの補給を受けていたのだ。
それに伴い5月1日、出港直後のいずもは、太平洋上で米補給艦にしばらく随行し、護衛行動を取った。この米補給艦は、北朝鮮有事に備えて日本海に展開する米空母艦隊に合流する途中だった。
筆者がいずもに乗艦した際、ある記者が「その後、米艦防護はまた行なわれたのか?」と質問したところ、海自の広報担当者は「それに関してはお答えできません」と回答した。おそらく、今後同様の行動は珍しくなくなるため、いちいち公表しないことに決めたのだと思う。日本近海では、日米艦隊の協力体制はかなり密になってきている。
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((取材・撮影/柿谷哲也[フォトジャーナリスト]) 協力/小峯隆生)