小野寺五典防衛相が、北朝鮮のミサイルがグアムに向けて発射されたら、集団的自衛権の発動で迎撃可能との認識を示した。
これに関し、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、安倍政権の“「米軍抑止力至上主義」という病理”だと警鐘を鳴らす。
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アメリカと北朝鮮の間で、戦争の危険性が高まっている。
核ミサイル開発をやめない北朝鮮に「世界が見たことのないような炎と怒りに直面するだろう」と警告したトランプ大統領に、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「今月中にも米軍基地のある米領グアムに向け、4発のミサイルを放つ」と宣言したのだ。
もし北朝鮮が本当にミサイルを発射し、米軍が自国への攻撃と見なしてミサイルを迎撃、あるいは北朝鮮に報復攻撃するようなことになれば、米朝は戦争状態に突入することになる。
その可能性は低いといわれているが、万一そうなれば、日本も危ない。小野寺五典(いつのり)防衛大臣が答弁しているように、安倍政権はグアムが北朝鮮に攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たる可能性があると考えているからだ。
集団的自衛権を発動し、グアムの米軍を守るために日本が北のミサイルを迎撃したり、軍事行動を共にすればどうなるか? 北から見れば、日本を攻撃していないのに日本が攻撃を仕掛けてきた。ならば、自国防衛のために日本に対してもミサイル攻撃をしようとしてもおかしくない。日本を射程に収めるノドンミサイルの実戦配備数は200~300基とされている。へたをすると、数千、数万の日本国民の命が失われかねない。
だが、グアムの米軍を守るために多くの国民の命を危険にさらすのはおかしくないか。そこに見えるのは、「米軍抑止力至上主義」という病理だ。
安倍政権は日米同盟と米軍の抑止力が日本の安全にとって死活的に重要と考えている。そして、トランプ大統領から「北朝鮮を攻めよう」と要請されて断ったら、日米の信頼にヒビが入る→それは米軍の抑止力が欠如するのと同じで、日本の安全が守れなくなる。だから、そうならないよう何がなんでも米軍と一緒に戦う、という論理を頑(かたく)なに信じている。それこそ“国民の一部が犠牲になるのもやむをえず”と考えているかのようだ。
安倍首相は“戦争ができる国づくり”を進めようとしている?
私は安倍政権がなすべきことは「日本は自国が攻撃されない限り、北朝鮮を攻撃することはない」「アメリカが北朝鮮を攻撃する際、国内の基地を使用させない」という2点を米朝のみならず、国際社会に表明することだと考える。そうすれば、北朝鮮が日本を攻撃する理由はなくなるからだ。
だが、安倍首相にそんなそぶりは見えない。それどころか、5月にトランプ大統領が北朝鮮に対して「(軍事オプションを含め)あらゆる手段がテーブルに乗っている」とぶち上げた際には、「アメリカに感謝する」と持ち上げるかのような発言をしている。
韓国の文大統領が「米朝の戦争を絶対に認めることはできない」と釘を刺した対応とは対照的で、米朝危機を口実にして“戦争ができる国づくり”をさらに進めようとしているのではと勘繰りたくなるほどだ。
8月末には来年度予算の概算要求が出てくる。防衛予算に「敵基地先制攻撃のための研究費」などが計上されるようなことになれば、日本は本当に危うい。北が日本に攻めてこなくても、米軍と一緒に北本土を攻撃する準備に入るととられる可能性がある。
トランプ、金正恩だけではない。安倍首相もまた、あまりに危険な火遊びをしているのではないか? 戦争だけは絶対にしてはならない。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中