鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
7月9日、プーチン大統領と森喜朗元首相が会談を行ない、北方領土問題について議論を交わした。元外務省主任分析官の佐藤優氏は独自のルートで手に入れた情報から今回の会談には今後の対露交渉を方向づける重要な要素があったと指摘する。
北方領土は返ってくるのか? そしてそのタイミングとは? 前編に続き、議論する!
* * *
佐藤 今、プーチンがこんなにも前向きに動いているのはなぜか? それは森元首相の北方領土問題解決に対する強い気持ちに感銘を受けているからですよ。事態がなかなか進展しない難しい外交問題を動かすのは人と人との信頼関係なんです。
森さんはもしかしたらこの先それほど長くは生きられないかもしれない。それでも体に鞭打ってロシアに渡って、まさに命がけで交渉を続けている。その気持ちにプーチンも応えたいと思っているんです。
鈴木 会談の後、プーチン大統領が森元首相を宿泊先のホテルに自ら送ったという報道もありました。
佐藤 私もその話は大変興味深いと思っています。会談の最中に森元首相が「自分はもう体力的に階段を10段上がるのがやっとなんだ。だから今回の訪露には私を心配した娘がサポートのためについてきてくれている」と話すと、それに対してプーチンは驚いた様子で「なんでその娘さんをこの食事会に連れてこなかったんだい? じゃあ今から挨拶をしに行こう」と言って、会談後、森元首相の宿泊先にまでわざわざ足を運んだんです。プーチンがこんな対応をすることはめったにありませんよ。
鈴木 そうした状況で今後、北方領土交渉が動く時期はいつになると見ていますか?
佐藤 プーチンは来年3月に行なわれる大統領選挙までは静かにしているでしょうね。ただ、そこでプーチンが再選すれば事態は急激に動きだす。
では具体的に何が起こるか? 色丹島と歯舞群島の日本への引き渡しです。うまくいけば2020年の東京オリンピックまでに返ってくるでしょうね。二島には日の丸が揚がり、日本円も使えるようになり、車も左側通行になる。
国後島と択捉島については、その段階ではまだロシア領だろうけど、日本人は国内を旅行するのとほとんど変わらないような簡単な手続きで渡れるようになる。その上で北方四島での経済協力を推進していけば現地の情勢はよくなり、結果的にロシア国内でも日本への北方四島引き渡しの機運が高まります。
加計学園の答弁に見た怖い雰囲気
■加計学園の答弁に見た怖い雰囲気
佐藤 日露の関係性が今のような前向きな状態になったのは実に15年ぶり。02年に「鈴木宗男事件」が起こって、鈴木先生と私が国策捜査で失脚させられたことで、日露交渉は一度白紙に戻っているわけですから。
当時、鈴木先生は会見でも国会でも根拠を示しつつ事実を話していましたが、どんなに丁寧に説明しても誰も聞く耳を持たなかった。その結果、北方領土交渉がストップしていたわけですが、最近の国会答弁を見ていると15年前の雰囲気に非常に近いものを感じますね。
特に気がかりだったのが加計(かけ)学園に関する国会の閉会中審査です。安倍首相が何を言おうと聞くまいとするという雰囲気がありました。もちろん安倍政権にも落ち度はあります。今回の審議では普段の答弁と比べて低姿勢すぎて、逆に見ている人に不信感を抱かせたと思うし、森友学園問題の対応には時間をかけすぎた。
そして閣僚の相次ぐ失言も相まって国民の信頼を失ってしまった。でも、たとえ与党や首相が今みたいに攻撃しやすい状況であっても政治家たちは冷静に客観的事実に基づいて議論する姿勢を忘れてはいけないと思うんです。
そもそも加計学園が今治市に獣医学部を新設できるように政治家が働きかけたことのどこに問題があるんですか?って話ですよ。
鈴木 具体的な被害者もいないわけですからね。
佐藤 今の国会には15年前と同じ何か怖い雰囲気を感じます。みんな事実に基づいて動いているのではなく、何かに興奮して勢いで動いている。その結果、得するのは国民ではないと思います。
鈴木 そのとおりですね。皆さまも客観的な目で、政治を見てほしいなと思います。
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。今年、7年ぶりに公民権が回復し、現在政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる