9月3日に北朝鮮が強行した核実験の爆発規模は、広島型原爆の約10倍。北朝鮮側の「水爆が完成した」との言い分が事実かどうかはともかく、弾道ミサイルに核弾頭を搭載する技術はほぼ完成したとみていいだろう。
今後はさらなるミサイル発射実験が行なわれることが確実で、一般的には米本土を狙うICBM(大陸間弾道ミサイル)を警戒する声が多い。しかし、『デイリーNKジャパン』の高英起(コウ・ヨンギ)編集長はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の開発状況にも注意する必要があると語る。
「北朝鮮はSLBMの開発にも力を注いでおり、昨年8月24日に『北極星1号』を発射。今年2月12日には、SLBMを地上発射型に改造した『北極星2号』の発射実験を行なっています。次に撃つのは新型の『北極星3号』になる可能性もあり、これは重大な脅威です」
SLBMは核戦争で国土が消滅しても、隠密性の高い潜水艦から“報復”として敵国を核攻撃するための兵器。ゆえに、これを保有する国に対しては、そう簡単に先制攻撃を仕掛けることができない。まさに文字どおりの“最終兵器”だ。軍事ジャーナリストの世良光弘(せら・みつひろ)氏は、北のSLBMの実力をこう分析する。
「昨年発射された北極星1号の射程は1000km程度とみられます。ただし、次に発射する新型では大幅に距離を伸ばしてくる可能性も十分にあるでしょう。そのSLBMを搭載するのは、旧ソ連のゴルフ級潜水艦を参考に造られた通常動力型潜水艦『新甫(シンポ)級』です。詳しい実力は不明ですが、艦橋部分に1、2発の弾道ミサイルを搭載可能。今年7月にも日本海で48時間ほど姿を消し、SLBMの発射準備ではないかと警戒されました」
現在、この新甫級潜水艦は日本海を中心に活動しているが、もし核搭載SLBMが実用に近い段階まで進めば、アメリカを牽制(けんせい)すべく津軽海峡や対馬(つしま)海峡を抜けて太平洋に出ていく可能性が高い。
「そうなれば、海上自衛隊は日本近海で常に新甫級の動きを追わなければなりません。水上艦のみならず、哨戒機や潜水艦も動員する必要に迫られます」(前出・高氏)
ただ問題は、もし北の潜水艦がSLBMを発射する兆候があったとしても、海自は「防衛出動」が下令されていない限り撃沈することができない、撃つことができないということ。つまり、もし核ミサイルが目の前にあっても、北朝鮮と戦争状態にでもなっていない限り、監視・追尾して米軍に知らせることしかできない可能性が高いのだ。
「しかも、北は弾道ミサイルを10発以上搭載できる新型原子力潜水艦の開発に乗り出しているとの情報もある。もしこれが完成すれば、軽々と太平洋にまで進出し、SLBMによる米本土への攻撃も可能になります」(前出・世良氏)
日本近海を核ミサイル搭載潜水艦が跋扈(ばっこ)する―そんな悪夢が近づいている。
(写真/時事通信社)