鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
これまでになく緊張が高まっている北朝鮮情勢だが、各国の度重なる制止に反してミサイルを発射する金正恩の心理とは? そして、トランプはいざというときに本当に日本を守ってくれるのか…!?
* * *
鈴木 本日は緊迫する北朝鮮情勢について、佐藤さんに分析していただこうと思います。
佐藤 はい。8月22日にアリゾナ州で行なった演説のなかで、トランプ大統領は北朝鮮との関係がもしかしたら改善するかもしれないと示唆しました。トランプには何か意図があることがうかがえる。
今、トランプは中国を通じて北朝鮮に、核兵器と弾道ミサイル開発をやめるならば、(1)金正恩政権を承認した外交関係をつくる (2)金正恩政権を武力で倒さない (3)38度線より北に米軍は侵攻しない (4)朝鮮半島の統一を急がない、という4つの条件を提示している。ただ金正恩委員長はこの条件はのまない。なぜなら核兵器とミサイルを完全に捨てる気はないから。
一方で“取引(ディール)の名人”トランプもそれはわかっているから、今提示している条件には妥協の余地を用意しているんです。その妥協案とは北朝鮮に中距離弾道核ミサイルの開発は認めるというもの。実はトランプはパキスタンの中距離ミサイル開発を黙認していますが、これはアメリカ本土に届かないならばほかの国はどうなったって構わないという発想に基づいて外交をしているから。そしてこの条件で米朝は手を結ぶのではないかと私はみています。
北朝鮮はアメリカが容認した核ミサイルを使って、射程圏内の日本と韓国に対していろんな無理難題を吹っかけてくるでしょうね。
鈴木 日本はどのような対策をとるべきなのでしょうか?
佐藤 核には核の力で対抗する。つまり、今ある非核三原則のうち、「持ち込ませず」の条項を撤廃して、日本国内の米軍基地に核兵器を置いて抑止力を強化するというシナリオが出てくるでしょうね。ただ、米軍にはどこに核兵器を展開しているかを明らかにしないという原則があるので、抑止力としてはあまり期待できないでしょう。いずれにせよ日本が窮地に立たされることは間違いない。
ただ、一番問題なのは、そもそも金正恩には核抑止の理論が通用しない可能性があるということ。もし抑止の理論が効いているなら、大陸間弾道ミサイル(ICBM)なんかつくらないし、グアム島周辺海域にミサイルを何発も落とすなんて考えは持たないはずですよ。金正恩はこちらが核を持っていようとなかろうと、「死なば諸共(もろとも)だ」と、攻撃してきかねないね。
そんな特殊な思想を持った人が国家の指導者になれるのかと思う方もいるかもしれないけど、実は以前にも似た事例があった。例えばイランのアフマディネジャド前大統領は「イスラエルを地図上から抹消する」と公約に掲げ、核と弾道ミサイルの開発を始めた。これは無謀ですよ。だって一発でもイスラエルに核ミサイルを撃ち込んだら、イスラエルは60発くらいの核ミサイルで報復するだろうからね。
だけどアフマディネジャドは「そんなときは宗教指導者イマームが天から降りてきて、イスラエルのミサイルを迎撃してくれる」と言って開発をやめなかった。
イスラエルとアメリカも「冗談なんじゃないか?」と専門機関に調査させたんだけど、本気らしいという結果が出てしまってね。だからテヘランに工作員を送って、技師たちを暗殺したり、ミサイルシステムにサイバー攻撃をしかけたんです。核抑止理論が効かない人にはそういう手を使うしか道がないんですよね。
★後編⇒トランプは日米同盟を簡単になくす? 北朝鮮ミサイルで暗躍するウクライナの“闇バイヤー”とは…
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。今年、7年ぶりに公民権が回復し、現在政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は10月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ