鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
これまでになく緊張が高まっている北朝鮮情勢だが、各国の度重なる制止に反してミサイルを発射する金正恩の心理とは? そして、トランプはいざというときに本当に日本を守ってくれるのか……!? 前編に続き、議論する!
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週プレ トランプ政権の下で日米同盟はどうなるのでしょうか?
佐藤 それに関しても、今後アメリカの手助けが見込めなくなるかもしれない。8月12日にアメリカのシャーロッツビルで白人至上主義者と対抗デモを行なった反対派が激突して、死傷者が出た。この一連の騒動を見て改めてわかったのが、トランプ大統領は白人至上主義者だったっていうことですよ。
8月16日の東京新聞の電子版から引用します。
「トランプ米大統領は15日、米南部バージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者らと反対派が衝突した事件について、『責任は双方にある』との認識を示し(中略)、『ネオナチや白人至上主義者らは非難されるべきだ』としながらも、『悪人ばかりではない。双方に素晴らしい人々がいた』と強調。
互いに暴力をふるっていたとの認識を示した上で、『双方に責任があると思う。疑いの余地はない』と語った。こうした発言を受け、米メディアでは『人種差別主義者らを擁護した』(CNNテレビ)など、総じて批判的な論調が目立っている」
アメリカにおける人種差別は、1950~60年代の黒人、アフリカ系アメリカ人に対して公民権の適用を求める公民権運動を通じて克服されたとされてきた。しかし、その差別意識は眠っていただけで、今回のトランプの失言で再び姿を現した。
特に心配なのは、白人至上主義が外交に及ぼす影響。トランプ大統領は人種主義という観点から、アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルなど白人陣営は自分たちの仲間だという前提に立って外交を進めるかもしれない。
今から98年前、第1次世界大戦後のベルサイユ講和会議で、日本は国際連盟規約に人種差別撤廃条項を入れることを提案したけれど、米国と英国の反対で実現できなかった。
鈴木 わずか98年前には、まだ人種差別は国際的に禁止されていなかったわけですね。
佐藤 残念ながらそうでした。現在、多くの外交、国際政治の専門家は21世紀の世界に人種主義が台頭することはないと考えているようですが、それは甘いと思う。
北朝鮮危機の元凶はウクライナ
8月13日にも、オーストラリアの上院で大変な騒動がありましたよね。先住民アボリジニやアジア人を追い出せと主張している政党の女性議員が、中東で女性が肌を覆い隠すために使用しているブルカを着て議場に登場して「これじゃ誰だかわからないでしょ? こんな危ない服は禁止しましょう」と発言したんです。
オーストラリアはかつて、白豪主義から抜け出して、“多民族共存のモデル国家”とさえいわれていた。そんなオーストラリアにさえ、再び白人至上主義が姿を現してきている。このまま放っておくと世界規模でこの流れは拡散する危険性がありますよ。
そうすると北朝鮮のミサイル問題だって、日米同盟があるからと安心していると、いつの間にか同盟自体がなくなってしまうかもしれない。するとますます北朝鮮を止められなくなりますよ。
■北朝鮮危機の元凶はウクライナ
佐藤 ところで、最近の北朝鮮のミサイルエンジン技術の進歩の速度は速すぎますよ。どこかから技術情報が流出しているとしか考えられません。
鈴木 ウクライナなどから漏洩(ろうえい)しているとの報道がありますが…。
佐藤 インテリジェンス業界でもウクライナが技術情報を管理しきれていなくて、結果流出してしまっているというのが定説ですね。このミサイル技術の流出に関しては、国家の意思でそうなっているわけではなくて、ロケットエンジンの工場関係者が金を稼ぐために闇のバイヤーに流出させている。そしてそのバイヤーが北朝鮮に協力しているんです。
ロシアは旧ソ連崩壊後に核や大量破壊兵器開発の技術者が他国に流れるのを防ぐためにモスクワ国際科学技術センターを設立して、雇用する体制をつくったんだけど、ウクライナはそうした体制をつくれていない。
だから今、国際社会がやらなければならないのは、徹底したウクライナに対する査察ですよ。でないとウクライナからの兵器技術の流出は今後も起きるだろうからね。
今、日本を脅威にさらしている中国の航空母艦・遼寧(りょうねい)だってもともとはウクライナで造られたものが中国に流れて誕生している。マカオの華人の会社が「洋上カジノにする」と、ウクライナでスクラップ用に停泊していたアドミラル・クズネツォフ級航空母艦「ヴァリャーグ」を買いつけたんですが、ウクライナから曳航(えいこう)してきたら、マカオに入らずに大連の軍港に入って、そのまま空母になっちゃった。
ウクライナにきちんとした管理体制があればわれわれが今、中国の空母や北朝鮮のICBMの恐怖にもおびえることもなかった。そうした前歴があまりにたくさんあるから、私はウクライナという国を信用できないんですよ。
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。今年、7年ぶりに公民権が回復し、現在政界復帰を目指して全国行脚中
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は10月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ