先の都議選で「都民ファーストの会」から立候補、定数2の渋谷区でトップ当選を果たした元女子アナの龍円愛梨氏(40歳) 先の都議選で「都民ファーストの会」から立候補、定数2の渋谷区でトップ当選を果たした元女子アナの龍円愛梨氏(40歳)

先の都議選で小池百合子氏率いる「都民ファーストの会」から立候補し、定数2の渋谷区で2位を大きく引き離す得票数でトップ当選を果たした元女子アナの龍円愛梨(りゅうえん・あいり)氏(40歳)。

経歴を紐解けば、テレビ朝日入社後、アナウンサーを経て警視庁、北朝鮮拉致問題、東京都庁、宮内庁などを担当する社会部記者だった。

プライベートでは、2011年に12年間勤務した同局を退社し、日系人男性とアメリカで事実婚。(アメリカに行く前は事実婚状態ではなかった)さらに2013年には長男を出産。やがて、その子にダウン症があることをメディアに明かしている。

結局、父親である男性とは破局を迎え、2015年に帰国。現在、4歳の息子と暮らしながら、ダウン症のある子を持つ親が集う教室などを主催している。

そんな龍円氏に、そもそも政界進出に関心があったのか? それとも別の理由による立候補だったのか? コトの真相を聞いてみた。

-なぜ、また突然の政界進出を?

龍円 元をたどれば、帰国の翌年に小池百合子さんが主宰する政治塾「希望の塾」に参加したのがきっかけですね。

-政治に興味があったんですか?

龍円 いえ、政治家になるつもりは全くなくて。海外と比べて、ダウン症のある子供に対するサポートがあまりにも遅れていたので、そこに入れば政治や行政の現場に直接、意見が届くかなと思ったんです。

-逆に言えば、アメリカのサポートがすごかったんでしょうか。

龍円 びっくりしましたよ。うちの子にダウン症があることがわかってやっぱりショックでしたが、その瞬間からサポートが始まるんです。具体的には自宅まで州の担当者が来てくれて症状や傾向を査定。それを経て、ひとりひとりが必要とする最適なオーダーメイドのサポート案が作られます。だから、落ち込んでいる暇がなかった(笑)。逆にダウン症のある子供が生まれてきてよかったなあと本気で思っています。

-料金はかかるんですか?

龍円 基本的には無料です。日本だったら、役所の障がい者支援課に行っても、なかなか必要な情報や支援にたどりつけません。

一とはいえ、正直、大変なこともあるでしょう。

龍円 一般的に子育ては大変だとは思いますが、ダウン症のある子供は逆に育てやすい面もあるんですよ。あまり泣かないし、機嫌がいいし、要求も多くない。「もう、イヤだ」とキレたりしたことも1回もないので。言葉は遅れますけどね。「ママ」って呼んでくれるんですが、どう聞いても「パパ」にしか聞こえない(笑)。でも、300から400種類の手話を使えるので意思の疎通はできます。

-政界挑戦にあたって「都民ファースト」からはどのような形で打診が?

龍円 最初は代表の野田数(かずさ)さんからお話をいただきました。でも、政治家になる気がない上に、シングルマザーとして政治活動と子育て、ましてやダウン症のある子供ですから、その両立は無理じゃないですか。だから、(最初は)お断りしました。

小池さんからも電話がかかってきて…

-気が変わったのはどのような経緯で?

龍円 その後、小池さんからも電話がかかってきて、「やりたいことがあるのは聞いています。自分が政治家になって変えるのが一番早いわよ」と言われた。これでちょっと気持ちが揺れましたね。とはいえ、両親にも子供の面倒を見てもらっていたので緊急会議ですよ(笑)。

-ご両親の反応は?

龍円 最初は反対されましたが、小池さんとのやりとりを含めて説明したら「やりたいことが実現できるんならやってみたら?」と母が言ってくれました。父も政治学者(龍円恵喜二氏)なので内心は嬉しかったんじゃないでしょうか。

-じゃあ小さい頃から政治が身近にあったんですね。

龍円 食卓での話題も「国家のあり方」や「社会がどう変わればみんなが生きやすくなるか」とかでした。子供的にはそんな話はもういいわ…と思っていたんですが、そういった刷り込みが今の活動につながっているのかもしれません。

-実際に選挙活動をされてみてどうでした?

龍円 初めてのことなので何もわからない(笑)。社会部の記者時代は選挙も取材しましたが、外から見るのと中に入るのとでは全然違いました。

-苦労した点は?

龍円 苦労というのはあまりなかったんですが、街角で出会って3秒で見知らぬ方と握手するとかはずっと慣れませんでしたね。あと、5分ぐらい手を離さない酔っ払いのおじさまがいたり(笑)。

-活動スタッフはどうやって集めたんですか?

龍円 帰国してからダウン症のある子供を持つご両親を対象に「DS SMILE CLASS」という小さいコミュニティクラスを開いたんです。場所は東京なのですが、全国各地から応募が殺到して、地方のほうが情報がなくて困っている状況を知りました。トータルで200組ぐらいの家族と交流していて、その方々が結果としてボランティアスタッフとして駆けつけてくれました。

-ものすごく強い絆ですね。

龍円 ママさんはバギーに乗せた子供におやつを食べさせながらチラシを配ってくれたり、小池都知事が応援演説に来られた時はお父さんチームが交通整理をしてくれたり。大学の後輩で女子アナ志望のコたちもいて、「発声練習だと思って大きい声で言ってみてね」って(笑)。おかげさまで、よそから見ると華やかな現場でした。

-ぶっちゃけ「たぶん当選するだろう」という思いはありましたか?

龍円 とんでもない。定数2人の枠に5人が立候補していて、強力な現職のおふたりもいらっしゃる。正直、落選も覚悟していたので午後8時のNHK速報で最初に当確が出た時はスタッフみんなで大騒ぎでした。

いい人がいたら紹介してください(笑)

-さて、晴れて当選して、いよいよこれからですね。

龍円 障がい者のサポートについては、まず海外の情報をお伝えしたいです。アメリカは障がいのある子供に特化した修士か博士号以上のスタッフじゃないと療育に携われないのですが、日本は作業療法士、理学療法士などの人材が不足していて、残念ながら現場に専門的な知識が少ない方も大勢いらっしゃるんです。すごく一生懸命やっているんですが知識量が足りないように感じます。

-障がい者サポート以外については?

龍円 本会議が始まってから本格始動ですね。一方で、部会では厚生委員会とオリンピック・パラリンピック特別委員会に配属されたので、その業務もあります。あとは広報本部の部長も。これらに加えて、休日は息子を連れて地元・渋谷区のお祭りやイベントにも顔を出します。

-結構、忙しそうですね…。

龍円 帰国後に両親に「40歳までは障がい者支援活動をやらせてほしい」「それまでに芽が出なかったら、諦めて子供のために9時5時の仕事に就くから」とお願いしたんです。そしたら、たまたま40歳のこの歳で都議会議員になれたからホッとしています(笑)。

-最後になりましたが、最近の恋愛事情を聞かせてください。

龍円 再婚とか次のパートナー? 相手がいればいいんですけど(笑)。ただ、子供のこともあるので慎重になりますね。できれば離婚歴があってお子さんがいるぐらいの方がいいかなと。私にとってはどうしても息子が一番なので、「わかるよ、俺は2番でいいよ」って言ってくれる人が理想。いい人がいたら紹介してください(笑)。

龍円愛梨(りゅうえん・あいり) 1977年生まれ スウェーデン・ウプサラ市出身 ダウン症がある長男(4歳)のシングルマザー 都民ファーストの会・都政改革委員 〇小中学校時代を東京、北海道、英国で過ごす。渋谷区、富士見ヶ丘女子高等学校、法政大学法学部政治学科卒業後、1999年にテレビ朝日入社。アナウンス部に所属「やじうまワイド」「スーパーJチャンネル」「おかずのクッキング」「ぷっスマ」など担当。06年より社会部記者として警視庁、北朝鮮拉致問題、東京都庁、宮内庁などを担当、11年に退職。翌年、米国Saddleback College Journalism、Child Development専攻 〇日本初となるダウン症がある子供を持つご両親向けの番組「ココロのバリアフリー」(FM局「sora×niwa」)でパーソナリティとして出演中(毎週土曜15時~16時) 最新情報はブログにて https://ameblo.jp/airi-ryuen/

(取材・文 /石原たきび 撮影/早川善博)