北朝鮮は「核ミサイルによるEMP攻撃能力を得た」と発表。事実なら大きな脅威だ

北朝鮮の核ミサイル危機が緊迫するなか、防衛省が8月末に提出した来年度予算の概算要求額は過去最高の5兆2551億円。特に注目されているのが、まだ実現化に至っていない最新鋭兵器に関する研究予算だ。

「こんなわけのわからないものにカネをつぎ込むなんて…」との批判も聞こえてくるが、実際のところ、その実力や実現可能性はどの程度なのか?

■「高速滑空弾」で北ミサイルを叩く?

9月3日に通算6度目の核実験を強行した後、朝鮮中央通信は「わが国は『電磁パルス(EMP)攻撃能力を得た』と報じた。以来、日米など各国でEMP爆弾に関する報道が相次いでいるが、これはどんな兵器なのか?

軍事評論家の菊池征男(まさお)氏が解説する。

「ミサイルで運ばれた核弾頭が高度100kmから400kmの上空で爆発すると、広範囲にわたって強力な電磁波(電磁パルス)が発生します。そして、地表に達した電磁パルスは大電流となって電子機器や送電線をショートさせ、無力化してしまうのです。都市機能を一瞬でブラックアウトさせるEMP攻撃が実行されれば、間違いなく社会はパニックになるでしょう」

実は、EMP攻撃は何も北朝鮮の専売特許ではなく、自衛隊も新たに研究予算を計上している。ただし、もちろん核爆弾タイプではなく、非核型のEMP弾だ。

「アメリカやイスラエルも、核を使わないタイプのEMP弾を開発中です。ただ、やはりその威力はまだまだ弱い。自衛隊としても、実際に敵に対してEMP弾を使おうというよりも、北朝鮮のEMP攻撃の影響をミニマムに抑える防衛策を研究・開発するための予算計上という側面が強いかもしれません」(菊池氏)

それに対して、「高速滑空弾」は完全に“攻め”の研究だ。弾道ミサイルでもなく巡航ミサイルでもない、新たな長射程の対地攻撃兵器の特徴を、軍事アナリストの毒島刀也(ぶすじま・とうや)氏はこう語る。

「地上あるいは艦艇から多連装ロケットで打ち出され、上空で切り離された後は先端部の誘導弾が超高速でグライダーのように滑空。そして、そのなかから多数の弾子を地表へ向けてバラまくという『面』を制圧する兵器です。

防衛省の概算要求資料ではサイズなどスペックの詳細が判然としませんが、最低でも投射重量250kg、射程500kmはあると思われます。3次元軌道も含めた精度の高い誘導システムを構築することが望ましいので、おそらくアメリカのGPSに頼り切るのではなく、日本の準天頂衛星システム『みちびき』も航法システムに加えようと考えているのではないでしょうか」

使い方としては、例えば沖縄本島から打ち上げられ、離島を占領している敵軍を狙い撃ちする……といったところ。ただし、この滑空弾は、場合によっては北朝鮮のミサイル発射施設などに対する「敵基地攻撃能力」にもなると毒島氏は言う。

「サイズや射程がさらに発展すれば、ロケットで亜宇宙まで打ち上げられ、大気圏のへりを滑空する『ブーストグライダー兵器』というカテゴリーになります。これはICBMに代わる、核を使わない新兵器として各国で研究されています」

◆日本にとって北朝鮮だけではなく、海洋進出を続ける中国も大きな脅威。陸上自衛隊が運用することを念頭に置いた「高出力レーザーシステム」で中国軍のドローンを潰す? この続きは『週刊プレイボーイ』41号「自衛隊「ハイパー新兵器構想」を緊急検証!」にてお読みください!

(取材・文/世良光弘 写真/時事通信社)