「新たな国難を呼び込んだ安倍首相と国政進出にかまけて対策を取らない小池知事の罪は重い」と語る古賀茂明氏

2020年の東京五輪開催まであと3年を切った。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、五輪期間中に東京ビッグサイトが閉鎖されることによる深刻な経済ロスについて懸念する。

* * *

10月22日の投開票日を控え、国政は総選挙一色という状況だが、そのなかで置き去りにされている数々の問題がある。

そのひとつが、東京ビッグサイト(有明)の閉鎖がもたらす深刻な経済ロスだ。2020年の五輪期間中、ビッグサイトは国際放送センターやメディアプレスセンターとして利用されることになっている。そのため、9万6660平方mの展示場が最長20ヵ月間、使用不可となる。

東京都はその対応策としてビッグサイトから約1.5km離れた場所に仮設展示場(2万3200平方m)を建設する予定だが、それを含めても、全面使用不可の期間があり、20ヵ月間の平均利用可能面積も現状の54%しかない。そのあおりを受け、同期間に開催が予定されていた232本もの見本市が中止に追い込まれる。

見本市では食品、機械製品、おもちゃなど、あらゆるジャンルの商品が展示され、国内外のバイヤーが押しかける。その来場者数は、ビッグサイトだけでも年間約1500万人にもなる。

それだけに、広告費や海外出張費を捻出できない国内の中小企業にとっては、見本市はまたとない自社製品売り込みの場だ。日本展示会協会によれば、五輪による影響で、国内7万8000社がビジネスチャンスを失い、最大で2兆円の経済損失が生じるとのこと。この被害を受ける中小企業などからは悲鳴が上がり、10月5日には大規模なデモまで実施された。

見本市だけではない。ビッグサイトでは年2回開催される、世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」(コミケ)も中止または縮小されるのは必至で、世界中のファンから批判されるだろう。

東京ビッグサイト問題も“国難”のひとつ

さらに見逃せないのは、見本市やコミケ中止による経済損失は、ビッグサイトが閉鎖される20ヵ月間にとどまらないことだ。世界の各国は競うように見本市を開いている。巨大見本市を開けば開くほど、多くの企業やバイヤーが集積し、結果としてその国の産業やマーケットの影響力や存在感が増し、国富をもたらすからだ。

この熾烈(しれつ)な国際レースから、1年半以上も脱落することになる。ヘタをすると、企業は中国、韓国、香港、シンガポールなどの見本市への出展を進め、東京五輪が終わっても日本へ回帰しない恐れがある。

北京(08年)、ロンドン(12年)の両五輪でも国際的な見本市が中止になるケースは皆無だった。イギリス政府、中国政府も見本市の戦略的重要性をよくわかっており、巨大展示場を五輪関連施設として使用するような愚を犯すことはなかった。

アベノミクスを掲げる安倍首相はかつて、日本を「世界で一番ビジネスしやすい国にする」と豪語したものだった。その言葉が本当なら、政府は開催都市の東京都と調整し、メディアプレスセンターを別に仮設するなどの救済策を打ち出すべきなのだが、小池都知事の答えは、わずかに閉鎖期間を縮小するというもの。抜本的対策を取るには今すぐ動かなければならない。

それなのに、政府も東京都も総選挙モード一色。安倍首相は今回の衆院解散を「国難突破解散」と名づけたが、東京ビッグサイト問題も“国難”のひとつだと言ってもいい。解散・総選挙でかえって新たな国難を呼び込んだ安倍首相と国政進出にかまけて対策を取らない小池知事の罪は重い。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955 年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中