欧米先進国に大きく遅れをとっている日本のEV戦略。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、「このままでは日本の自動車産業が崩壊する」と警鐘を鳴らす。
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総選挙は終わったが、とても気になることがある。それは、温暖化対策がまったく選挙の争点にならなかったということだ。
近年、欧米先進国では、温暖化対策は政治の重要な争点だ。なかでも、戦略的なエコカー政策は選挙時の「宣伝材料」にまでなっている。なのに、日本ではこの議論がまったく盛り上がらない。
エコカーの代表はEV(電気自動車)。各国がその普及にしのぎを削る。最近も、ガソリン・ディーゼル車について、英仏政府が2040年までの販売禁止の方針を打ち出し、パリ市は30年までの市内乗り入れ禁止の検討を表明している。
欧州だけではない。今や世界シェア32%のEV大国である中国も、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の主導でEVとPHV(プラグインハイブリッド車)などの販売を19年までに10%、20年までに12%とする義務を課すと発表し、「EVシフト」を鮮明にした。
この規制では、日本が得意とするハイブリッド車(HV)はもはや時代遅れで対象外。米カリフォルニア州同様の規制だが、これは、単なる環境規制ではなく、EVで日米欧を一気に逆転する戦略だ。また、インドも30年までに国内で販売する自動車をEVのみにすると宣言し、世界制覇の野望を露(あらわ)にしている。
世界の自動車生産台数は年間約9600万台。その市場規模は2兆ドルにもなる。そんななか、EVシフトという歴史的構造転換が始まった。各国は危機感を抱き、環境規制を使って自動車産業の戦略的育成を図っている。ところが、日本は、官僚の天下り維持と経団連のご機嫌取りのために、燃費の悪いガソリン車にエコカー減税をしている。
実は、世界初の量産型EV「アイ・ミーブ」を発売したのは三菱自動車だ。日本はEV開発で世界のリーダーだったのだ。
しかし、今ではどうだろう? 日本で先頭を走る日産の新型「リーフ」でさえ、同クラスの米テスラ社のモデルに走行距離で遠く足元にも及ばない。高級車クラスでもテスラ社はもちろん、海外大手メーカー勢の後塵(こうじん)を拝し、トヨタなどはその最後尾であえいでいる状況だ。EVに欠かせない蓄電池においても、日本の電機メーカー勢に取って代わって、今では中国メーカーが世界シェアの6割を占めている。
日本はEV開発で世界のリーダーだった
シャープ、東芝など、エレクトロニクス産業大手が崩壊するなか、自動車産業は日本が世界で戦える最後の砦(とりで)だ。本来なら、政府はここで反転攻勢をかけ、日本をEV大国に導く施策を打ち出すべきだろう。
だがそうした動きはいまだ見られない。それどころか国土交通省は、この10月にEVと一体で急発展している自動運転技術に19年から規制を設けると発表した。高速道路などを自動運転する際、ドライバーがハンドルから65秒以上手を離すと手動運転に切り替わるシステムの搭載をメーカーに義務づけたのだ。
世界がEVに完全自動運転を可能とするシステムを組み込もうと動いているのに、日本では65秒しか手離し走行できない。この障壁で海外の自動運転車を締め出し、日本メーカーを守るつもりなのだろうか。
このままでは、日本経済の虎の子、自動車産業が崩壊する。これこそ「国難」ではないのか。与野党とも目を覚まして、直ちに国会で、EVシフトの国家戦略をしっかりと論議すべきだ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中