組織ぐるみの不正が明らかになり、波紋が広がる商工中金の不正融資問題。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、この不正の背景には「天下りの弊害がある」と指摘する。
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中小企業に融資を行なう政府系金融機関「商工組合中央金庫」(商工中金)による不正が発覚したのは昨年11月のこと。商工中金は、経営が健全な企業に対しても経営難であるかのように書類を改竄(かいざん)するなどして、実績を水増ししていた。
その後の調査で、不正はほぼすべての支店で行なわれていたことがわかり、トップの安達健祐(けんゆう)社長が10月25日に辞任を発表するなど、全職員の2割に当たる約800人が処分の対象となった。まさに会社ぐるみの暴走だ。
1936年に設立された商工中金は、行財政改革の一環として2008年に特殊会社に改編。その後、5~7年をめどに政府出資を減らし、最終的には完全民営化される予定だった。
しかし、リーマンショックや東日本大震災の発生を受け、中小企業への公的金融支援の必要性が高まったとして、2度にわたって民営化は先送りに。その間、商工中金が力を注いだ業務が「危機対応融資」だった。「リスクが高い」と尻ごみする民間銀行に代わり、“最後の貸し手”として中小企業に低利の資金を融資する。その結果、発生した収益減については国が利子補給するというスキームである。
その原資として商工中金が国に要求した予算は2012年だけでも1兆5千億円を超える。巨額のビジネスだ。
商工中金の民営化が2度も先送りになった背景には、自民党族議員と経産省の思惑がある。民営化されれば、族議員はその融資について口利きができなくなり、経産省も最優良の天下り先を失ってしまう。政官共に反対なのだ。
商工中金は4大政府系金融機関のひとつ。これらの金融機関のトップはすべて天下りだったが、小泉改革の目玉として民間人に切り替えられた。しかし、第2次安倍政権はこれら4つのうち3つの政府系金融機関で財務省や経産省からの天下りを復活させた。両省の協力を得るためだ。
こうした構造を理解すれば、なぜ今回のような不祥事が起きたかがわかる。民営化を遅らせて天下りを温存するには、政府系金融機関としての存在意義を示さなければいけない。当然、トップは実績が欲しくなる。
商工中金も完全民営化して出直すべき
商工中金における“実績”とは、数兆円規模に膨らんだ「危機対応融資」の予算を着実に消化し、融資先を大幅に増やすことだ。
だが、その融資が焦げつき、返済不能の中小企業が続出するという事態になってはまずい。それはそれでトップが責任を問われるからだ。そこで、商工中金は優良企業を“資金繰りに困っている会社”に見せかけ、そこに融資をしたのだろう。これなら貸し金が焦げつくリスクを抑えつつ、融資実績を増やせる。
言うまでもなく、利子補給の原資は税金だ。中小企業の生き残りを助けるための金融機関なのに、自組織と親元の役所の生き残りのために「危機対応融資」を悪用するとは本末転倒と言うほかない。
現社長の辞任を幕引きにしてはいけない。再発防止のためには、この不正行為を始めた当時の杉山秀二社長にも退職金返納などを求めるべきだ。
そもそも「危機対応融資」は民間の銀行でもできる。中小企業に低利融資をした銀行に国が利子補給し、損失分をカバーする制度を整えればいいだけのことだ。商工中金も完全民営化して出直さなければならない。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中