11月20日付読売新聞の1面から2面にかけて掲載された「日本版トマホーク開発へ」という大見出しの記事。防衛省が2018年度から研究を始める「島嶼(とうしょ)防衛用新対艦誘導弾」に、対地攻撃能力を付加する計画がある―との内容で注目を集めた。
ただ、「日本版トマホーク」という言葉に対し、専門家筋では疑問の声が大きい。航空評論家の嶋田久典氏が言う。
「トマホークとは米軍が持つ巡航ミサイルで、精密誘導型の最新版は射程3000kmを誇る。一方、日本の『新対艦誘導弾』は射程約300kmと、わずか10分の1です」
トマホークの運用に必要な周辺システムの整備についても課題は山積みだ。例えば、
●事前に目標選定とその価値評価を行ない、それを1日単位で更新する体制。→日本ではヒューミント(人的情報収集技術)が期待できず、偵察衛星の解像度も不十分。
●GPSのような正確な位置座標提供システム、もしくは地形照合に使える詳細かつ正確な地形図。→同じく偵察衛星は能力不足。日本版GPS衛星「みちびき」を使うにしても、アメリカのGPS誘導で助けてもらうことが不可欠。
…といった具合。どう考えても「トマホーク」というのは言いすぎらしい。
では、なぜ防衛省は「新対艦誘導弾」に対地攻撃能力を求めるのか。嶋田氏が続ける。
「以前、フランスはアメリカからトマホークを売ってもらえず巡航ミサイルを自主開発しましたが、結局コスト面も性能面も本家トマホークには遠く及びませんでした。そこで最近は、終末誘導がより精密な対艦ミサイルに対地攻撃能力を兼用させようというのが世界のトレンド。対地攻撃ミサイルを独自開発するよりコストが抑えられるからです」
ただし、例えばアメリカが開発中の対地攻撃兼用の長距離対艦ミサイル「LRASM」は射程約800km。日本の「新対艦誘導弾」の射程300kmというのはこれと比べても非常に短く、沖縄本島から撃って宮古(みやこ)島にギリギリ届く程度だ。
「島嶼防衛用」とうたう限り、射程を延ばせば「専守防衛から外れる」と批判されるからだろうが、いくらなんでも中途半端。5年後の“試作品”完成の頃に「77億円の開発費はムダだった」なんてことにならなければいいが…。
(取材・文/世良光弘)