「両市の関係を解消する」11月24日、大阪市の吉村洋文(ひろふみ)市長が姉妹都市の米サンフランシスコ市に“絶縁宣言”を突きつけた。
理由は、サンフランシスコ市内の聖マリア広場に中国系団体が設置した慰安婦像を同市が公的所有物として受け入れたこと。大阪市の経済戦略局国際担当職員が説明する。
「慰安婦像そのものより、市の決定で慰安婦像を受け入れるというのが問題。大阪市は『日本の名誉に関わる慰安婦像の受け入れだけはやめてほしい』と、何度もサンフランシスコ市にお願いしてきたのですが…。今回のことで信頼関係が崩れたと判断し、市長が姉妹都市関係の解消に踏み切ったということです」
とはいえ、この決断は市長ひとりが下したもの。決定に関与できなかった市議会では異論が相次いでいる。
「市長と同じ会派の大阪維新は賛成していますが、自民、公明などは慎重です。『60年間も続いた関係を解消してしまうのはどうか?』『市議会で議論すべき』など、独断を疑問視する声が少なくありません」(大阪市政担当記者)
関係解消によるマイナスを心配する声もある。両都市の高校生交流を手がけてきた「大阪サンフランシスコユースコネクト」の担当者が言う。
「サンフランシスコから毎年2名の高校生を受け入れていますが、その交流事業に悪影響が出ないか気がかりです。また、サンフランシスコで9月23日に開かれた『日本祭り』のサポート役に派遣した日本人大学生5名の渡航費補助金69万2千円も、果たして予定どおりに市から支出されるのか…」
さらに、市長の決断が「メガトン級のマイナスをもたらす」と断言するのは、日本外国特派員協会に所属する東南アジア紙の女性特派員だ。
「特に欧米社会から見れば、慰安婦像とは日本の名誉うんぬんに関係なく、戦時性暴力の防止と女性の人権の大切さを訴えるものです。吉村市長の行動は、その普遍的なアピールに反対しているようにしか映りません。大阪市は2025年世界万博の開催地に立候補していますが、このままではイメージ悪化は避けられない。ただでさえ招致レースはライバルのパリが優位といわれているのに…」
万博はカジノ誘致とともに、大阪維新が掲げる大阪活性化の超目玉政策。それがパーになりかねないというのだ。
佐賀県唐津市役所に抗議が殺到
吉村市長はなぜ、そんなリスクを冒してまで慰安婦像の問題にこだわるのか? 関西在住のジャーナリストは、「その理由は橋下徹(はしもと・とおる)前大阪市長にある」と指摘する。
「13年5月、市長時代の橋下氏は『慰安婦は必要だった』と発言。これにサンフランシスコ市が反発し、橋下氏の同市訪問がキャンセルになりました。さらに15年8月には、慰安婦像の設置を審議するサンフランシスコ市議会に、橋下氏が抗議書簡を送る騒ぎもあった。慰安婦像をめぐり、橋下氏とサンフランシスコ市側は対立していたんです。そして、現在の吉村市長はその橋下氏の後継者。親分が振り上げた拳(こぶし)を振り下ろすこともできず、ついに姉妹都市解消にまで突っ走ってしまったのでしょう」
また、実は大阪以外の都市にも意外な“余波”が及んでいる。姉妹都市の韓国・麗水(ヨス)市内に慰安婦像が設置されたことから、佐賀県唐津(からつ)市役所に「大阪を見習って関係を断絶しろ!」という抗議が殺到しているのだという。
だが、唐津市は冷静だ。
「今はまだ民間団体だけの問題ですし、何より35年間、お互いの大きな行事に市長を招いたり、市職員の相互派遣を続けてきていますから。その積み重ねをムダにするわけにはいきません。もし麗水市が慰安婦像を市の公共物と認めたら? …まあ、それでも批判に耐えながら(笑)、姉妹都市関係を続けると思います」(唐津市国際交流課)
大阪市と唐津市、どちらの対応が賢明か。吉村市長ももう一度考えてみては?