「純国産・自前主義を捨て、海外一流企業との連携で新たな地平を切り開くという姿勢に転換するべき」と語る古賀茂明氏 「純国産・自前主義を捨て、海外一流企業との連携で新たな地平を切り開くという姿勢に転換するべき」と語る古賀茂明氏

初の国産ジェット旅客機「MRJ」の開発が難航する三菱重工業。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、「純国産・自前主義を捨てるべき」と提言する。

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三菱重工業が苦しんでいる。原因は同社が総力を挙げて開発している初の国産ジェット旅客機「MRJ」だ。

同旅客機は2008年に開発がスタートし、13年には初号機が受注先に引き渡される予定だったが、設計変更などが相次ぎ、5度も納入が延期されている。

当初、2千億円とされた開発コストも、5千億円近くに膨らんでしまった。

痛いのは三菱重工がもたつく間に、ライバル企業のエンブラエル(ブラジル)、ボンバルディア(カナダ)などがMRJと同じ100席以下のリージョナルジェット開発に着手したことだ。MRJの初号機納入は20年半ばの予定だが、エンブラルの新型機も翌21年には投入される。

MRJのセールスポイントは従来機比で30%の燃費改善だったが、ライバル勢の新型機もこれに追いつき、MRJの優位性はすっかり失われた格好だ。売り込み競争が激化すれば、これまでの受注(447機)からキャンセルが続出し、数千億円規模の損失となりかねない。現に11月22日付の日経新聞は、「初のキャンセル濃厚」という見出しで、近く40機キャンセルが出る公算が大きいと報じた。

タイミングの悪いことに現在、三菱重工は日立製作所との間にトラブルを抱えている。

両社がそれぞれの火力発電事業部門を統合し、三菱日立パワーシステムズを設立したのは14年のことだった。

ところが、統合前に日立が受注していた南アフリカの火力発電プラント建設で巨額の損失が発生。その負担額をめぐり、三菱重工側が7634億円の支払いを日立に求めているのだ。今年7月末には三菱重工側が日本商事仲裁機関に仲裁を申し立てるところまで泥沼化している。三菱重工が負ければ、出資比率(65%)に応じた損失が生じる。

「世界の三菱」の名を汚す失態

MRJ、そして南アの発電プラントでの損失見込みを合わせると1兆円を軽く超えてしまうかもしれない。三菱重工の自己資本は2兆円と厚いので、1兆円の損失が出てもすぐに経営危機にはならないが、手元現金が2500億円しかないので、借り入れなどの財務手当てが必要となるはず。経営に黄ランプがともったと警戒すべきだろう。

日経新聞によれば、MRJの開発が難航していた10年頃、三菱重工はボーイング社から「ボーイング737のコックピットを使ってみては?」と持ちかけられている。しかし、三菱重工は“純国産開発”にこだわり、その提案を一蹴してしまった。このとき、「YES」と応じていれば、その後の5度に及ぶ納期遅れもなく、今頃MRJは世界シェア1位のリージョナルジェットになっていたかもしれない。

同社では、11年に鳴り物入りで受注した大型客船2隻で2540億円の損失を計上、今年8月には、試作車まで造ったのに価格で折り合わずリニア新幹線事業から撤退するなど、「世界の三菱」の名を汚す失態が続いている。

「わが社の技術は世界一」という思い込み、文化の異なる海外企業との協業べたがガラパゴス化をもたらし、グローバル市場での日本企業の不調につながっている。三菱重工も復活を望むなら、純国産・自前主義を捨て、海外一流企業との連携で新たな地平を切り開くという姿勢に転換するべきだ。そうすればMRJの未来に明るい展望を開く可能性が生まれるだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中