1980年代に日米で大ヒットしたトム・クルーズ主演の戦闘機映画『トップガン』の続編が、2019年に全米公開――。
そんなニュースにファンが狂喜するなか、同映画で大活躍した米海軍の複座型戦闘機F-14トムキャットの空戦シーンの演出に協力し、自らも出演していたレーダー迎撃士官デイブ・バラネック氏(タックネーム“バイオ”)が、新著『F-14トップガンデイズ』を引っ提げて来日した。
現在、世界最強といわれる米空軍のF-22や、航空自衛隊も導入する最新鋭戦闘機F-35など、昨今ではパイロット1名だけの単座機が主流だ。しかしその一方で、前席にパイロット、後席にレーダー迎撃士官(RIO)などを乗せる複座機にも独特の魅力があり、ファンも多い。
そこで今回、バイオ氏をスクランブルで迎え撃つのは、空自で複座機F-4ファントムのパイロットを長年務めた杉山政樹・元松島基地司令(タックネーム“キッド”)。前代未聞の“地上複座対談”、発進!
■空自では、フラれた翌日は飛行中止?
―複座機における搭乗者ふたりの関係というのは、一般人には想像しづらいものがあります。バイオさんは若い頃、おしゃべりをしていて前席のパイロットから「勘弁してくれ」と言われたとか。
バイオ(以下、B) 初めて空母飛行隊に着任した少尉の頃、F-14が空母に夜間着艦しようとしていました。私は後席で計器を監視していましたが、前席で操縦するパイロットの“ジョンボーイ”に「ジョン、船がいますね」「月がきれいですよ」などとつい話しかけたのです。
すると着艦後、「バイオ、着艦のときは話しかけないでくれ。忙しいんだ」と言われました。そこで初めて、前席のパイロットの苦労がわかりましたね。
キッド(以下、K) 複座機特有の会話術があるんです。例えば、鳥がエンジンに突っ込んだらエンジン停止の危険性がありますが、だからといって後席の人間は鳥を見ても「あっ!」などと急に口に出してはいけない。ぐっとこらえて、前席のパイロットを驚かさないようにしないと。前席の性格を理解して伝え方を“忖度(そんたく)”するんです。
B 複座機の人間関係や意思の疎通は特殊です。もちろん大多数の飛行士はそんなことは言いませんが、なかにはスケジュール担当士官に対して「あいつとは一緒に飛びたくない」と言う人間もいました。
―コックピット内での会話はどんなものですか?
B 無線では汚い言葉は使いません。ただ、無線を切ったインターカムの状態なら、そりゃ「くそっ」「ちくしょう」くらいのことは言いますよ。ふたりの男が楽しく仕事しようとしているのですから(笑)。
敵を見誤れば、敵はあなたを撃墜する
―空自ではどうでしょう、そういう言葉は?
K ありましたね。
B そうだと思った(笑)。
K 特に1980年代までは、無線も含めてメチャクチャでしたよ。ウイングマン(僚機)に対しても、誘導する地上のレーダーサイトに対してもガンガン言い合っていた。それをだんだんみんなが反省するようになり、最近は米軍に近づきましたが(笑)。
―例えば「昨日フラれた」というようなパイロットも訓練に出るんですか?
K モチベーションや感情は重要ですから、朝の時点であからさまに調子がおかしかったり、家庭に問題があるといった情報が入ったら、その日はノーフライですよ。
B 空母では失恋も何もありません。「ジョン、ごめんね」みたいな悲しい手紙が届くこともまれにありますが、米海軍には「コンパートメンタライジング」という概念がある。プライベートなことはすべて地上に置いて、飛行に集中するんです。
B そういえば、私は太平洋での長期航海を5回経験しましたが、空自との訓練は一度もありませんでした。
K 確かに、私も沖縄近くを米海軍空母群が通ったとき、A-4やFA-18とは一緒に訓練をしましたが、F-14とはなかったですね。
B 米海軍はF-14を“神秘的な飛行機”として隠しておきたかったんでしょう。
K バイオさん、F-15(F-14の少し後に登場した戦闘機)との空戦訓練の経験は?
B あります。F-15は素晴らしい飛行機ですが、欠点がないわけではない。2機のF-14と2機のF-15が旋回を繰り返す交戦訓練で、簡単ではありませんでしたが“撃墜”したことがあります。
K 2バイ2などの同条件下では、私は撃墜したことはないですね。6バイエニーと呼ばれる訓練では、味方機が罠(わな)を仕掛けてつくった死角から入っていってキル(撃墜)を取ったことはありますが。
B トップガン(米海軍のトップパイロット養成学校)ではいつもこう言います。
「あなたの乗機は世界で最優秀の戦闘機かもしれない。あなたは有能なパイロットかもしれない。それでも敵を甘く見てはならない。敵を見誤れば、敵はあなたを撃墜する」
歴史をふり返っても、イギリスは1940年の「バトル・オブ・ブリテン」で、正しい戦術で戦闘機スピットファイアを使い、ドイツに勝利した。一方、オーストラリアは43年、同じスピットファイアで大日本帝国海軍の零戦との迎撃戦に臨みましたが、戦術を誤って敗退しました。
★元米海軍×元空自──複座戦闘機乗りの『トップガン』対談「特に危ないと感じた場面は…」【後編】
(構成/小峯隆生 通訳/茂木作太郎 撮影/五十嵐和博 写真/航空自衛隊[F‐4])
●デイブ“バイオ”バラネック(David“BIO”Baranek) 米海軍で20年勤務した航空士官。F-14飛行隊から勤務を開始し、エリートパイロットを養成するトップガンの教育に参加。後に統合参謀本部や第7艦隊でも勤務し、1999年に退官。米ソ冷戦の最前線の実情や出演・協力した映画『トップガン』の秘話をつづった新刊『F-14 トップガンデイズ 最強の海軍戦闘機部隊』(並木書房、2000円+税)が好評発売中
●杉山“キッド”政樹 元航空自衛隊空将捕。F-4戦闘機のパイロットとして活躍し、後進の育成にも尽力。2011年3月11日の東日本大震災の際は、大津波で甚大な被害を受けた宮城県松島基地の基地司令として救助活動や基地・装備の復旧に力を注いだ