(上)キッド氏がパイロットとして主に乗った米F-4ファントムⅡ(現在の自衛隊版は「F-4EJ改」)。(下)バイオ氏が愛した米海軍のグラマン社(当時)製空母艦載型複座戦闘機F-14 トムキャット

1980年代に日米で大ヒットしたトム・クルーズ主演の戦闘機映画『トップガン』の続編が、2019年に全米公開―

そんなニュースにファンが狂喜するなか、同映画で大活躍した米海軍の複座型戦闘機F-14トムキャットの空戦シーンの演出に協力し、自らも出演していたレーダー迎撃士官デイブ・バラネック氏(タックネーム“バイオ”)が、新著『F-14トップガンデイズ』(並木書房)を引っ提げて来日した。

現在世界最強といわれる米空軍のF-22や、航空自衛隊も導入する最新鋭戦闘機F-35など、昨今ではパイロット1名だけの単座機が主流だ。しかしその一方で、前席にパイロット、後席にレーダー迎撃士官(RIO)などを乗せる複座機にも独特の魅力があり、ファンも多い。

そこで前編に続き、バイオ氏をスクランブルで迎え撃つのは、空自で複座機F-4ファントムのパイロットを長年務めた杉山政樹・元松島基地司(タックネーム“キッド”)。前代未聞の“地上複座対談”、発進!

* * *

―現在、日本は北朝鮮ミサイルの脅威に直面しています。

 弾道ミサイルの落下速度は、戦闘機のレーダーで探知できる速度を超えています。空自のF-15で対処するのは難しいでしょう。

 厳密に言うと、射程300kmから600kmのスカッドミサイルなら撃ち落とせると思います。しかし、マッハ10で1000km以上飛んでくる弾道ミサイルは無理でしょう。だからこそ今、「守るだけではなく策源地への攻撃も必要ではないか」との議論が起きているわけです。

とにかく、あのイスラエルでさえ、湾岸戦争のときはスカッドミサイルを迎撃できたのは半数程度といわれています。迎撃はそれくらい難しいんですよ。ですから迎撃できなかったミサイルからどう身を守るかは、国民の努力次第ということです。

―長い飛行士生活のなかで、特に危ないと感じた場面は?

 F-14で空母に着艦する際、アレスティングワイヤーが外れ、そのまま機体が海に落ちていったことがあります。私がエジェクション(脱出)ハンドルを引くと、仕掛けられた爆薬が爆発してキャノピーを吹き飛ばし、0.4秒後に後席が射出。その0.5秒後に前席が射出されました。反射的にハンドルを引けたのは本当によかったと思います。

 私は前席で操縦をしているとき、燃料切れの危機がありました。タンク間の燃料の移送に問題が発生し、エンジンに燃料が十分に送り込まれなくなってしまったんです。場所は沖縄の南100マイル(約160km)。エマージェンシー(非常事態発生)をかけ、後席に「おまえはもう出ろよ。ギリギリまで飛んて、ダメだったら海に持っていくから」と伝えました。

前席の私までベイルアウト(緊急脱出)すると、機体が陸地に落ちてしまう可能性がありましたから、そのときは死ぬ気でしたよ。ギリギリのところで燃料の移送が始まり、エンジンが復活したので助かりました。

杉山“キッド”政樹氏

いずれはAIがパイロットを忖度?

 キッドさん、「エジェクション・タイ・クラブ」のネクタイは持っていますか?

 なんですか、それは?

 マーチン・ベーカー社製の射出座席でベイルアウトした飛行士は、ネクタイがもらえるんです。

 知らなかった。空自で持っている人はいないです(笑)。

―飛行するときは死を覚悟するものですか?

 死の可能性は頭の中にありました。実際に命を落とした仲間はいるのですから。ただ、生きて帰りたいなどとは考えません。教わったことを頭に入れて、最善を尽くす。何をコントロールできて、何がコントロールできないのかを判断する。

 エンジンが止まったら…などと考えてしまったら、怖くなる。そうなったらそれだけ対処が遅くなります。私が飛行隊長だったとき、怖くなってフライトをやめる人間もいました。叱咤(しった)激励で乗り越えられる者もいれば、心が折れてしまう者もいます。心が折れたパイロットは降ろしてやるしかありません。

デイブ“バイオ”バラネック氏

―最後に、複座機はいずれ消えゆく運命でしょうか?

 そうかもしれません。私は視力の問題でパイロットになれませんでしたから、複座機の時代に生きたことは運がよかったですね。

 後席の任務は、コンピューターが代わりにやるようになってきています。ただ、今のところコンピューターと人間は意思の疎通ができない。『スター・ウォーズ』のXウイングの後席に乗っているR2-D2のように、いずれはAIが「パイロットを驚かさない」とか、そういう“忖度”ができるようになっていくといいと思いますね。

 どんな未来が来るかは誰にもわからないのです。ただ数年前、海軍の若い中尉や大尉と話した際には私と同じ熱意、気力、責任感を感じました。彼らの技術や戦術は昔とは大きく違うでしょうが、情熱とプロ意識、これが変わることはありません。

 宇宙飛行士になった油井亀美也(ゆい・きみや)君もそうでしたが、空自では近年、米国留学経験者の割合が高くなり、従来の徒弟制度の下で人を磨くだけでなく、論理的に人材を育てられるようになってきた。頭脳と精神が融合し、強いパイロットが出てきていることを非常に頼もしく感じています。

F-14のレーダースコープ。中央の横線は海面の反射で、写真は不明瞭だが、その下に敵機を示す小さな点がふたつある

(構成/小峯隆生 通訳/茂木作太郎 撮影/五十嵐和博 写真/航空自衛隊[F‐4])

●デイブ“バイオ”バラネック(David“BIO”Baranek)米海軍で20年勤務した航空士官。F-14飛行隊から勤務を開始し、エリートパイロットを養成するトップガンの教育に参加。後に統合参謀本部や第7艦隊でも勤務し、1999年に退官。米ソ冷戦の最前線の実情や出演・協力した映画『トップガン』の秘話をつづった新刊『F-14 トップガンデイズ 最強の海軍戦闘機部隊』(並木書房、2000円+税)が好評発売中

●杉山“キッド”政樹元航空自衛隊空将捕。F-4戦闘機のパイロットとして活躍し、後進の育成にも尽力。2011年3月11日の東日本大震災の際は、大津波で甚大な被害を受けた宮城県松島基地の基地司令として救助活動や基地・装備の復旧に力を注いだ