(左から)めぐみさんの娘・ウンギョンさん、母・早紀江さん、孫娘(2014年にモンゴルで)

拉致被害者・横田めぐみさんの娘、キム・ウンギョンさん(30歳)の義父は、1976年に日本から北朝鮮に帰国した在日コリアンだったーー。

12月4日付の『毎日新聞』のスクープだ。つまり、母のめぐみさんを通じて日本とつながるウンギョンさんの結婚相手もまた、日本にゆかりを持つ人物だということになる。

記事によれば、この義父の名前はソンホさん。55年に中部地方で生まれ、日本の高校に通っていたが、民族意識に目覚めて東京都小平市にある朝鮮大学校に入学。そして在学中の76年に単身、新潟港から万景峰(マンギョンボン)号に乗り込み、北朝鮮に帰国したのだという。

ソンホさんはその後、やはり日本から帰国した女性と結婚。ふたりの間に生まれた男の子が、ウンギョンさんの現在の夫というわけだ。

ソンホさんが北朝鮮に帰国した76年というのは、どんな時代だったのか。41年前、ソンホさんが乗った万景峰号を新潟港の埠頭(ふとう)から見送った現在50代の在日コリアン男性がこう語る。

「帰国する従兄弟を見送りに行ったんです。『国籍差別があって日本の会社に就職できない。北朝鮮なら自由に働ける』というのが、従兄弟の帰国の理由でした」

しかしこのとき、万景峰号に乗り込んだ在日コリアンのほとんどは、親族訪問などのための一時帰国。この従兄弟やソンホさんのように、永住帰国する人はほんのひと握りだったという。

「帰還事業が始まった59年以来、“地上の楽園”という宣伝を信じて10万人近い在日コリアンが北朝鮮に帰国しました。ところが70年代になると、帰国しても厳しい思想統制や物資不足による生活苦を強(し)いられるだけだという事実が広く知られるようになり、帰国者は激減。私の従兄弟やソンホさんは極めてレアなケースでした」

金日成体制への強い忠誠心ゆえ?

北朝鮮の国内事情に詳しいコリア国際研究所の朴斗鎮(パク・トゥジン)所長も言う。

「ソンホさんという人物は、故・金日成(キム・イルソン)主席の『主体(チュチェ)思想』を信奉するなど、北朝鮮の熱烈な支持者だったのでしょう。そうでなければ76年に帰国などしません。そして、その体制への過剰な忠誠心が、後にウンギョンさんの義父になるという運命をもたらしたのだと推測されます。

まず、ソンホさんは平壌(ピョンヤン)に住み、その息子(ウンギョンさんの夫)は金日成総合大学で学んだとのことですが、体制への忠誠心が高い人でなければこんな特権は与えられません」

ソンホさんは帰国後も、金日成体制への強い忠誠心を保っていたということだろうか。

「また、ウンギョンさんは対日交渉カードとなるキーパーソン。北朝鮮政府にすれば、しっかりとした結婚相手をあてがいコントロールしたい。ただ家庭事情が複雑なため、普通の北朝鮮エリートはウンギョンさんとは結婚したがらない。そこで、在日出身で忠誠心の高いソンホさん一家に白羽の矢を立て、その息子とウンギョンさんを結婚させたのでしょう」(朴氏)

拉致被害者と在日帰国者。北朝鮮に翻弄(ほんろう)されるその生はあまりに痛々しい。

(写真・有田芳生氏提供/時事)