暴動や悲劇の連鎖の流れを加速させているのは、格安スマホによるネット環境の普及と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、東南アジアに広がる仏教ナショナリズムについて語る!

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苦境に立たされているイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの問題で融和を訴えるため、11月末にミャンマーを訪問したローマ法王フランシスコは、滞在中に「ロヒンギャ」という言葉を口にすることはありませんでした。後に法王自ら「対話の道を閉ざしたくなかった」と明かしたとおり、ミャンマー政府や国民の心情を"忖度(そんたく)"したのでしょう。

あらためて説明すると、同国政府はロヒンギャという呼称を使わず彼らを「ベンガル人」と呼んでいます。あくまでもバングラデシュからの違法移民であり、国内で保護されるべき存在ではない、と。そしてその政府の立場を、仏教徒である大多数の国民が支持しています。

長らくこの問題に関して沈黙を続け、今もミャンマー軍による「強制排除説」を否定しているアウン・サン・スー・チー国家顧問に対し、世界の活動家らはノーベル平和賞を剥奪すべきだと厳しく批判しています。ただ、そもそもスー・チー氏は半分お飾りのようなポストにいる指導者であり、軍主導で行なわれているロヒンギャ虐殺について何か手を下せる立場にありません。

現在のミャンマーにおける真の権力者は、ローマ法王とも会談を行なった軍最高司令官のミン・アウン・フライン氏。若い頃から武勲を上げ出世を果たした人物で、反政府デモが起こればすぐに鎮圧、中国との国境付近で少数民族が反乱を起こせば虐殺も辞さぬ姿勢で対処してきました。今はその"殺しのマニュアル"を、最高司令官としてロヒンギャの村々でも実行しているのです。

国内外で人気のあるスー・チー氏という"看板"を立てて欧米や日本の資本を引き入れ、経済成長を実現し国民を掌握。そして、マジョリティの仏教徒にとって"異物"であるロヒンギャを徹底的に排斥しつつ、報道をコントロールして彼らの反乱を「テロ」と呼ぶ―残念ながら多くの国民は、「これはイスラムテロとの戦いだ」というプロパガンダにまんまとハマっています。

さらに、ミャンマーと同じく仏教徒が多数を占めるスリランカでも悲劇は連鎖しており、先日もミャンマーから逃れてきたロヒンギャ難民の収容施設が、暴徒化した僧侶たちに襲われるという事件がありました。スリランカでは、2009年まで続いた政府軍とイスラム反政府組織との内戦の過程で"仏教ナショナリズム"が過熱。そこで生まれた過激派仏教徒組織「ボドゥ・バラ・セナ(BBS)」は内戦終了後、その矛先をマイノリティであるムスリムの排斥運動に向けているのです。

こうした流れを加速させているのが、ここ数年東南アジアでも爆発的に広まった格安スマホによるネット環境の普及。「民族浄化」や「異教徒排斥」といったネタがマジョリティの"娯楽"となり、それを一部の過激な仏教徒たちが実行動に移してしまっているというのが現状です。

懸念すべきは、あのアルカイダがすでにミャンマー政府へ"宣戦布告"しているのに加え、IS(イスラム国)も近年は東南アジアのムスリムを煽動していたとみられること。仏教徒による排斥運動の反動で、一部のムスリムによる新たな"アジアン・ジハード"の機運が広がってしまえば--言うまでもなく、日本にとっても対岸の火事ではありません。

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。10月より日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。 2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』が好評発売中!!!!