「アメリカと歩調を合わせ、対北圧力を強めることだけが外交ではない」と語る古賀茂明氏 「アメリカと歩調を合わせ、対北圧力を強めることだけが外交ではない」と語る古賀茂明氏

9日に板門店で行なわれた南北会談で、北朝鮮の平昌五輪参加が正式に決定した。

そんな雪解けムードの一方で、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、米の北朝鮮攻撃説の根拠となる「米中密約」の噂を検証する!

* * * 朝鮮半島で雪解けムードが進んでいる。韓国と北朝鮮が2年ぶりに高位級会談を開き、2月の平昌(ピョンチャン)五輪に北朝鮮が参加する見通しとなったのだ。

アメリカのトランプ大統領も「100%支持する」と、南北対話を表向きは歓迎。パラリンピック期間中に実施される予定だった米韓合同軍事演習の延期も決まったことから、条件さえ整えば、米朝が電撃的に対話をスタートさせるかもしれないという期待さえ抱かせる。

もちろん、この動きは北朝鮮の時間稼ぎにすぎず、それを見切った米国の本音はまったく違うところにあるという見方も根強い。さらには、米朝の軍事衝突のリスクはなくなるどころか、高まっているという説がある。その根拠が、コリアウオッチャーや中国専門家筋の間で昨秋から流布されている「米中密約」の存在である。

中国はアメリカによる北朝鮮攻撃に反対している。だが、それは表向きのことで、実際にはトランプ大統領と習近平主席の間で、米朝開戦のXデーに備えた秘密合意が成立している、ないし成立しそうだというのだ。その内容は以下のようなものだ。

中国がアメリカによる北朝鮮攻撃を恐れる理由はふたつ。(1)ひとたび戦争が始まれば、北朝鮮から大量の難民が中国に流入しかねない。(2)米軍が北朝鮮を占領すれば、北朝鮮国境で米中の軍隊が対峙(たいじ)することになる。

逆に言えば、このふたつの不安が解消されれば、中国はアメリカの対北攻撃を容認する可能性もあるということだ。そこで米中の間で、こんな合意が交わされたという。

●中国は、米軍が北朝鮮を攻撃し、核無力化のために北朝鮮領内に進軍することを認める。

●アメリカは、中国が北朝鮮国内に難民キャンプを建設し、国境管理をすることを認める。

●米軍は任務を終えたら、速やかに38度線以北から撤収する。

北朝鮮攻撃後の難民対策、戦後復興のコストは日本が負担

この密約の信憑(しんぴょう)性は定かではない。しかし、昨年12月12日にワシントンでティラーソン米国務長官が「前提条件なしに北朝鮮と対話する用意がある」と講演で明言した際に、前述した3条件とほぼ同様の趣旨で中国と話をしていることを暴露している。そのため、この密約説が脚光を浴び始めたのである。

それだけに、この密約内容を知った金正恩委員長が「アメリカによる攻撃が本当にあるかもしれない」と衝撃を受け、南北対話へと舵(かじ)を切った可能性がある。韓国との対話中はさすがのトランプ政権も対北攻撃は控えるはずだからだ。

この米中密約説にはオマケがある。それは北朝鮮攻撃後の難民対策、戦後復興のコストは日本に負担させるというものだ。

なぜ、日本がそんな負担をしないといけないのか? 理由は簡単だ。「日本は100%アメリカとともにある」と、トランプ政権追従宣言をしている安倍政権に「北朝鮮から日本を守ってやるんだから、戦後の復興費用も日本が出せ」とアメリカが要求すれば、安倍総理は「イエス」と言うしかないということだ。

だが、本当にこれでいいのか? 今の日本はトランプ追従というカードしか持っていない。その結果、米朝戦争のリスクとコストを負担する羽目に追い込まれている。アメリカと歩調を合わせ、対北圧力を強めることだけが外交ではない。場合によっては「独自外交」というカードも必要なはずだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中