北朝鮮が度重なるミサイル発射実験や核実験を行ない、日米を恫喝(どうかつ)する。それにアメリカのトランプ政権がしばしば噛みつき、一触即発の状態が続く。日本と韓国は北朝鮮からの〝とばっちり攻撃〟を避けるために、外交努力と並行して急ピッチで迎撃ミサイルをはじめとする抑止力の準備を進める…。
日本人がすっかり慣れてしまった東アジアのこの光景は、間違いなく今年も続くはずだ。たとえ2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪で一時的な緊張緩和が演出されたとしても、結局のところ北朝鮮には核を手放す気はなく、かといってアメリカをはじめとする周辺国がそれを簡単に認めるはずもない。むしろ、北朝鮮は今年中にも核弾頭搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)を本格的に完成させ、さらに強気の恫喝を繰り広げる可能性が高い。
また、最近では北朝鮮の脅威ばかりが強調されがちだが、その隣では世界第2位の軍事大国・中国が、ミサイルの増強を含めた軍拡を継続。1月11日には尖閣(せんかく)諸島周辺に、長距離巡航ミサイルを搭載可能な中国海軍の攻撃型原子力潜水艦が出現するなど、日本に対する圧力をさらに強めているーー。
いつの間にか“ミサイル林立地域”になってしまった極東地域で、日本は生き抜いていけるのだろうか?
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東アジア地域において、日本を直接の標的とするミサイルはどれくらいあるのか。まずは、昨年9月に「核兵器で日本の4つの列島を海へ沈める」との声明を出し、米軍の出撃基地となる日本も核ミサイルの標的としていることをあらためて明言した北朝鮮について、軍事ジャーナリストの古是三春(ふるぜ・みつはる)氏が解説する。
「射程1000kmの『スカッドER』、射程1300kmの『ノドン』などのIRBM(中距離弾道ミサイル)200発から300発が日本を狙っているとされています。発射機の制限からすべてを同時に発射することはできませんが、それでも1日当たり40発程度が発射可能であると米軍は予測しています。弾頭はすべて核というわけではないものの、天然痘(てんねんとう)や炭疽菌(たんそきん)といった生物兵器、VXガスやサリンといった化学兵器を弾頭にする可能性は十分にあります」
中国では350発以上が配備
一方、現在も核ミサイル技術の開発途上にある北朝鮮とは違い、完全に実用化された弾道ミサイルを多数配備しているのが中国だ。古是氏が続ける。
「日本を狙うのは、中国東北部の第51基地(瀋陽[しんよう])を中心としたミサイル旅団の射程1770kmのIRBM『DF-21(東風21型)』。台湾に向けられているものも含め、合計すると350発以上が配備されています」
なお、この日本向けのDF-21は単弾頭のミサイルだが、昨年11月に中国が発射実験に成功した射程1万2000㎞以上の新型ICBM「DF-41(東風41)」はさらにやっかいな能力を有しているのだという。
「中国軍高官の発表によれば、DF-41は最大10個もの弾頭を搭載でき、しかもそれぞれの弾頭が個別に誘導される方式(MIRV)。これが本当なら、弾道ミサイル迎撃網に対する突破能力が格段に上がっています」(古是氏)
(取材・文/世良光弘 写真/時事通信社)