「米軍基地が日本にとって本当に必要なものならば、その負担やリスクは日本全体で負うべき」と語る、英紙「ガーディアン」のジャスティン・マッカリー氏 「米軍基地が日本にとって本当に必要なものならば、その負担やリスクは日本全体で負うべき」と語る、英紙「ガーディアン」のジャスティン・マッカリー氏

沖縄で米軍ヘリの事故が相次ぐ中、2月4日に投開票された名護市長選では、米軍普天間基地の辺野古(へのこ)移転に反対する現職の稲嶺進(いなみね・すすむ)市長に代わり、自民・公明等の推薦を受けた新人の渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏が初当選した。

この選挙結果で「民意を得た」政府は、基地移設工事を加速していく方針だが、国土面積の0.6%に過ぎない沖縄に在日米軍専用施設の約74%が集中しているという状況は、海外から見てどうなのか?

「週プレ外国人記者クラブ」第107回は、英紙「ガーディアン」日本特派員ジャスティン・マッカリー氏に聞いた──。

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―名護市長選は、秋に行なわれる翁長雄志(おなが・たけし)知事の任期満了に伴う県知事選の「前哨戦」とされていただけに、移設反対派にとっては手痛い敗北でした。この選挙結果をどのように感じましたか?

マッカリー 沖縄ではここ数年、翁長県知事の下で「辺野古移設反対」の声が高まっていたので、今回の選挙結果は驚きでした。渡具知氏は選挙中、辺野古の米軍基地建設に関する自分の立場を敢えて明確にせず、「国と県の裁判を見守る」と言い続けてきましたが、自民・公明の推薦を受けていることを考えても、基本的には「基地建設容認派」と考えていいでしょう。

ただし、仮に「基地建設容認派」の市長が誕生したとしても、それで問題が決着したわけではないと思います。現実には名護市民の多くが今でも辺野古の基地建設に反対だと思いますし、沖縄の米軍基地問題は単に地元自治体の問題ではなく、沖縄全体の問題でもあり、もっと言えば「沖縄と本土」や「沖縄と日本政府」の問題でもある。そうした中で、新しい名護市長が今後どう動くのか、注意深く見守るべきでしょう。

─普天間基地の辺野古移転や、度重なる米軍機の事故など、「沖縄と基地」を取り巻く状況はここ数年、全く改善されていないように見えます。

マッカリー 僕も何度も沖縄を訪れていますが、「状況はまるで改善されていない」というのは、まさにその通りだと感じます。宜野湾市の普天間飛行場に隣接した小学校に行ったこともありますが、米軍基地とフェンスひとつ隔てた小学校のグラウンドに立った時、「自分の子供がこの学校の生徒だったら...」と想像して、愕(がく)然としました。

僕は基本的に「日本の安全保障を考えれば在日米軍の存在は必要」という意見ですし、日本から米軍がいなくなれば、喜ぶのは中国や北朝鮮だと思います。ただし、米軍基地が日本にとって本当に必要なものならば、その負担やリスクは日本全体で負うべきものであって、本土から遠く離れた沖縄だけに押し付けるべきものではないはずです。

ところが、日本の国土面積の0.6%に過ぎない沖縄に在日米軍専用施設の約74%が集中していて、その面積は沖縄県の実に8%以上を占めている。これはどう考えてもフェアではありません。最大の問題は、沖縄以外に暮らす日本人の多くがそうした現実を直視せず、まるで「他人事」のように見ていることであり、日本政府もまた、沖縄の人たちの怒りや不安の声を「無視し続けている」と感じています。

本来は反対派も容認派も「米軍基地の被害者」

─ここ数年、沖縄では国政選挙でも地方選挙でも基地反対派の勝利が続いてきた中で、地元自治体である今回の名護市長選の結果は反対派にとって、大きな痛手となりそうです。これが住民間の「対立」の火種になる可能性もありそうですが...。

マッカリー ひとつ、ハッキリさせておくべきなのは、名護市にとって辺野古の基地建設は重要な問題ですが、他の自治体と同じように、市長選の争点は「基地問題だけではない」ということです。沖縄の経済は決して好調とはいえませんし、選挙では当然、自分たちの街の将来や、自治体の経済政策など様々なことが争点となります。

しかも、ここ数年、安倍政権は本来、別の問題であるはずの沖縄の基地問題を「沖縄に対する経済支援や投資」とあからさまにリンクさせて、「基地反対を強く訴えるなら公的な支援の蛇口を絞る」といったことを行なってきました。そうした政府のやり方が今回の選挙結果に影響した可能性は否定できないと思います。

だから、選挙で基地容認派の候補に投票した人たちを安易に批判することはできないし、その人たちにも守るべき暮らしがあるのは当然のことです。それでも現実にはこうした選挙によって、本来は共に「米軍基地の被害者」であるはずの人たちが「反対派」と「容認派」に分かれて対立を深める可能性はあるでしょう。それは本当に悲しいことですし、そうした対立の原因を作るような政府のやり方は、実に罪深いと感じます。

─こうした沖縄の状況が改善するためには、何が必要なのでしょうか?

マッカリー やはり、沖縄が在日米軍基地の負担を極端な形で押し付けられている事実に対して、本土の日本人たちが見て見ぬふりをしたり、他人事と捉えたりせずに「自分たちの問題」だと意識することが欠かせないと思います。少なくとも現実問題として「日米安保条約は必要」という立場であれば、その負担を日本全体でシェアするのは当然のことで、沖縄だけに押し付けることは許されない。

日本の安全保障上、本当に在日米軍が必要ならば、過剰な負担を強いられている沖縄に代わり、日本の他の地域が基地負担を受け入れるしかないでしょう。ところが、本土の人たちは遠く離れた沖縄の現実を直視しようとはせず、メディアも沖縄の美しい自然や音楽、食べ物など「目や耳に心地よい」イメージばかりを強調し、沖縄が背負い続けてきた負担や、沖縄の人たちの不安や怒りといった現実を積極的に伝えようとはしない。

本土の日本人たちのそうした「無関心」が続く限り、日本政府も負担を沖縄に押し付け続けるでしょうし、沖縄の置かれた状況はこれから先も変わらない。でも、本当にそれでいいのでしょうか?

(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)

●ジャスティン・マッカリー ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で修士号を取得し、1992年に来日。英紙「ガーディアン」「オブザーバー」の日本・韓国特派員を務めるほかTVやラジオでも活躍