2月4日に行なわれた名護市長選は、普天間基地の辺野古移設に反対してきた「オール沖縄」の稲嶺(いなみね)進氏が敗れる結果となった。
この理由を、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、経済振興を前面に押し出した渡具知(とぐち)陣営の戦術にあると分析する。
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普天間基地の辺野古移設を進めようとする安倍政権と、これに反対する翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事ら「オール沖縄」の代理戦争となった名護市長選。その結果は政府・与党が全面支援する渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏の勝利で終わった。
「沖縄タイムス」などが行なった出口調査によれば、辺野古への基地移設反対は64・6%にもなる。なのに、なぜ反対派の現職・稲嶺進氏は敗れたのだろうか。
カギは経済振興を前面に押し出した渡具知陣営の戦術にある。
渡具知氏は基地問題に触れず、子育て支援や市街地の活性化など、市民の暮らしの向上にターゲットを絞って戦った。しかも、菅義偉(よしひで)官房長官が名護東道路の工事加速化をぶち上げるなど、与党幹部が次々と名護入りしてはバラマキ策を表明し、渡具知氏を強力にプッシュした。
一方、対立候補の稲嶺進前市長は基地移設反対の主張がメインだった。また、稲嶺市政になって以降、米軍再編交付金がストップして県財政が苦しくなっていたが、稲嶺3選で安倍政権のいやがらせがさらに激化することも住民は恐れていた。
名護市の子共の貧困率は約30%で、全国平均の2倍にもなる。市内に大きな企業もなく、働き場も少ない。そのため、市民は基地移設に反対だけど、まずは目の前の暮らしを良くしたいと、政府から金を引き出すパイプを持つ自民候補の渡具知氏に票を投じたのだろう。
そして、これと同じ現象が、今年11月に想定されている県知事選でも起きる可能性は低くない。翁長県政も反基地活動がメインというイメージが強く、県経済の飛躍につながるような具体的な成果が少ない。県知事選で安倍政権が再び名護市長選で見せた戦術で攻めてきた場合、翁長知事も稲嶺氏と同じく、落選の憂き目に遭うことになるかもしれない。
沖縄に自然再生可能エネルギーの一大発電拠点を
そうした事態を避けるために、翁長知事は与党のバラマキに対抗しうる、県民が希望を持てる経済プロジェクトを今すぐ打ち出さなければならない。
例えば、強い日照や風を利用し、沖縄に自然再生可能エネルギーの一大発電拠点を作るというのはどうだろう? それで本土の企業にはできない1kW10円未満の世界レベルの安い電力供給ができれば、電力多消費のグローバルなIT企業の集積地になることができる。
国家戦略特区を利用し、全国に先駆けて完全自動運転を沖縄で実施するというアイデアもある。また、アメリカや中国の企業と組み、誰でもライドシェアに参入できる仕組みを整えれば、中国などの観光客誘致にも弾みがつく。
これらの新経済サービスの分野では、日本は既得権に阻まれて、米中などに大きく後れを取っている。「オール沖縄」で取り組んで、本土に先駆けて実現にこぎ着けられれば、巨万の先行者利益と多くの雇用が沖縄にもたらされるはずだ。そうして豊かさを実感できれば、沖縄県民も補助金カットなどの国の「ムチ」を恐れる必要がなくなる。
あまり時間は残されていない。翁長知事は大胆な経済プロジェクトを打ち出し、海外に出向いて沖縄への投資を外資企業などに呼びかけるべきだ。その動きが沖縄経済圏自立への期待となったとき、県民は暮らし向きなど気にかけず、基地反対の首長に自由に投票できるようになるはずだ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中