憲法改正の道のりは長い? 「国民投票法」を起草した第一人者が“問題だらけの実態”を緊急告白!

昨年10月の総選挙で大勝し、自民・公明の与党だけで憲法改正の発議に必要な衆議院の3分の2を超える議席を獲得した安倍政権。

年明けから始まった通常国会では、安倍首相が連日のように改憲への強い意欲をアピール。自民党は3月末までに具体的な改憲案の取りまとめを行なう方針だという。

圧倒的な安倍一強の下、いよいよ「年内の改憲発議」とその先の「国民投票」が現実味を帯びてきたのか?

しかし、今から約10年前、民主党議員の政策秘書として国民投票法の起草に関わった、シンクタンク「国民投票広報機構」代表の南部義典氏は、「現実的に考えれば年内の発議など不可能」と指摘する。

それはなぜか? この問題に最も精通する南部氏に、改憲発議までの長~い道のりと、そこに残されたいくつもの課題について聞いた。

* * *

―安倍首相はやる気満々ですし、二階幹事長も年内の改憲発議を明言したことで、今年は「憲法改正イヤー」といった雰囲気になっています。仮に6月までの通常国会で発議されれば、最短で年内に国民投票という「スピード改憲」も可能なのでは?

南部 それは猛スピードすぎますね。私は「年内の発議」も難しいととらえています。

そもそも憲法改正案というのは、政府ではなく「国会」が提案します。しかし現時点では自民党も含めて、各党の間で「憲法の何をどう変えるのか?」という考え方すらまとまっていません。

また、改憲案の具体的な中身について自民党内では意見が割れていますし、安倍首相は「できるだけ多くの党の賛同を」と言っているけれど、野党の中には「そもそも憲法改正は必要ない」と主張している人たちもいる。

憲法改正の原案は、「可能な限り与野党の合意を形成する努力をする」のが理想ですから、これは相当に時間がかかる作業なのです。

―とはいえ、憲法9条の改正や自民党改憲草案に盛り込まれている緊急事態条項で、立憲民主党や共産党などを含めた「与野党の合意」なんて現実的に不可能じゃないですか? 結局、「合意が望ましい」なんて美しいタテマエは捨てて、自公+α(維新・希望の一部など)で進めるのでは?

南部 うーん、ただ9条に関していえば「戦力の保持」を禁止した9条2項を残したまま、自衛隊の存在を憲法に明記するという安倍首相の案に対して、石破さんは「2項の削除」を主張しています。党内の意見集約は簡単ではないでしょう。それに自民と連立を組む公明党も、改憲案については自民党と温度差があって一体とはいえませんし、維新や希望がどう動くかも現状では読めません。

国民投票の際の改憲テーマの分け方があやふや

―自民党内が9条2項をめぐって割れているのは事実だと思いますが、党内に有力なライバルがいない「安倍一強」状態は変わりません。昨年春には、自民党総裁の任期が「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長されました。今年9月の総裁選で安倍首相が再選したら、最長で2021年の9月まで安倍政権が続く可能性もあります。この状況で、安倍首相主導の改憲に本気で歯向かう勢力が現れるとは思えないのですが。

南部 それはどうでしょう? 問題はこの国の根幹に関わる憲法改正なのです。それを目先の損得で簡単に改憲に関する自説を曲げるようなら、そもそも「政治家」を名乗る資格なんてないと思います。

―公明党も「自民党のブレーキ役になる」と言いながら、「安保法案」や「共謀罪」にしても最後は自民党の言いなりです。それに公明がグズグズ言うなら、維新や希望の一部が「安倍政権に恩を売るチャンス」とすり寄ってきても不思議はない。そうなれば公明党も簡単に転ぶのでは? また、それ以外の改憲に反対する野党は「無視」すれば、第一のハードルはクリアじゃないですか?

南部 うーん、ずいぶん乱暴なシミュレーションですね。では百歩譲って、「自公+α」だけで原案の合意を目指すとしましょう。しかし、問題になることがあります。最終的に国民投票を行なう際、有権者が改憲のテーマごとに投票することになっているのですが、そのテーマの分け方についてのルールが今もあやふやなことです。

例えば「緊急事態条項」をひとつのテーマとして考えてみます。自民党の改憲草案では緊急事態下の(1)人権の制約、(2)自治体への指示、(3)法律に代わる政令の制定、(4)議員任期の延長(衆院解散の制限)などが含まれていました。

この(1)から(4)までまとめて一本の改憲原案で出されてしまうと、有権者はすべてに賛成か反対かのどちらかしか意思表示できません。個別に賛否を問うためには改憲原案を4つに分けないといけないし、投票用紙も4枚必要です。

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(インタビュー・文/川喜田 研)