「日本はいまだに外国人を単純労働の調整弁として扱っているにすぎない」と指摘する古賀茂明氏

人材不足に苦しむ日本の企業にとって、外国人労働者の受け入れは避けられない課題だ。

前回に引き続き、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、外国人労働者の受け入れで注目する企業の取り組みを紹介する!

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先週、ベトナム人技能実習生を低賃金労働者でなく自社の将来を担う高度人材として育て、業績をアップさせている北海道士別(しべつ)市の「かわにしの丘 しずお農場」を紹介した。

同農場はベトナムで評判になり、実習希望者が殺到するだけでなく、同国屈指の理系校・ダナン工科大卒のエンジニアまでもが就職を希望するなど、現地でも注目されている。

人材不足に苦しむ日本の企業にとって、優秀なアジアの人材確保に成功したしずお農場の経験は参考になる。ベトナム人はしずお農場のどんな人材育成法に引かれているのか。

ひとつは日本語を習得するための手厚いサポート体制だ。しずお農場は経営者自らが日本語教師養成学校に通い、実習生を対象に就業後、「夜間日本語教室」を自社内に開いた。しかも、日本語検定の取得級数が上がるごとに、給与を上げるインセンティブをつけた。これにより、実習生たちの日本語能力は急速にアップし、日本語で運転免許を取得。日本人同僚との協業効率もどんどん上がった。

経営者の今井裕さんによると、しずお農場の日本語教育の充実ぶりを知った市内の企業から、「ウチもやりたい」との要望が相次ぎ、昨年末には正規の日本語学校をオープンさせたとのこと。

「しずお農場」は給与面においても優秀だ。月収10万円足らずの実習生が少なくないのに、ここの実習生の賃金は大卒初任給並みの20万円。寮費・食費などを差し引いても16万円を超える。ベトナムの実家に月10万円の仕送りをして、2年で家を建てたという者もいる。また、寮には無料Wi-Fiが導入され、実習生がベトナムの家族とLINEで自由に交信できるようにするなど、こまやかな配慮も欠かさない。

「実習生を働く仲間として処遇したいだけ。いずれ奨学金を出して、日本の夜学に通わせたい」と、今井さんは言っていた。

覚悟と努力をいとわない企業を増やすべき

しずお農場の外国人材の育成法はドイツ式だ。外国人労働者を差別せず、地域の経済を支える人材と見なし、ドイツ語習得や職業訓練に力を入れた。ベンツやフォルクスワーゲンなども政府に移民受け入れを強く訴えた。今や移民はドイツ経済の成長を支える重要な存在だ。

年間60万人ペースで人口減の日本。生産力を維持するために、外国人労働者の受け入れ拡大は避けられない。事実、安倍政権は14年に「毎年20万人の移民受け入れを検討する」と発表。その後、一部の職種で永住権が解禁されるなど、日本で外国労働者の存在感は高まっている。

だが一方で、賃金の未払いや、労働者へのハラスメントなど、あまたの問題を抱える実習生制度の拡充を図るなど、日本はいまだに外国人を単純労働の調整弁として扱っているにすぎない。それでは有能な外国人人材の日本定着にはつながらない。しずお農場ほどの覚悟と努力をいとわない企業を増やす必要がある。

少なくとも、待遇は日本人と同じ条件で、企業には労働法規を厳守させる。日本語教育や各種免許取得など、教育体制の充実も大事だ。日本語教育のため自治体が教師を現地派遣することも検討すべきだろう。そして、こういった施策の上で、永住権の取得条件を緩和する――逆に言うと、ここまでやらねば、「移民で経済を再建」は、不可能なのだと思う。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中