余裕の4選を果たしたロシア大統領選の直前、プーチン大統領が「無敵ミサイル」と胸を張る新兵器の開発成功を、動画と共に発表した。なんと音速の10倍、マッハ10という“極音速”で飛行して敵のミサイル防衛網を突破し、地上の目標や海上の艦船にヒットするのだという。
…マ、マッハ10!! 航空評論家の嶋田久典氏がその秘密を解説する。
「高度上限の2万mまで上昇したミグ31戦闘機から発射される『Kh47M2キンジャル』というミサイルで、射程は2千km。短距離弾道ミサイル『9K720イスカンデル』を航空機に搭載できるように改良したものです。
航空機から真っすぐ発射される巡航ミサイルなどとは違い、このミサイルは発射されてからいったん高度500km近くまで上昇し、そこから落下する際の位置エネルギーが加わることで、終末速度がマッハ10にも達するわけです。画像を見る限り、オリジナルのイスカンデルミサイルの弾体にはない四角い穴がありますが、これが敵の防衛網を回避するための姿勢変更モーター用噴き出し口でしょう」
ちなみに、通常の巡航ミサイルの速度はマッハ0.8程度。「無敵ミサイル」は、航空機から発射されるミサイルとしては異次元のスピードということだ。
このミサイルは、第一義的にはアメリカや欧州のNATO(北大西洋条約機構)諸国に対する兵器という意味合いが強いが、もちろん“隣国”のひとつである日本にとっても大変な脅威となる。
例えば、極東ロシアの日本海沿岸に配備されているミグ31戦闘機から発射されたミサイルが日本の防空識別圏に入ったことを探知できたとしても、そこから日本の国土までわずか2、3分で到達してしまうのだ。
「当然、このミサイルが実戦配備されれば、日本の自衛隊は地上固定の早期警戒レーダーやイージス艦搭載の迎撃ミサイルSM-3、地上配備型迎撃ミサイルPAC-3で対処することになるでしょう。しかし、戦闘機から撃ち込まれるこのミサイルは、どこから発射されるかわからない上、地上や潜水艦から発射される北朝鮮の弾道ミサイルなどと違ってブーストフェーズ(発射してから最高高度に達するまで)が短い。捕捉・撃破は難しいかもしれません」(前出・嶋田氏)
実際、プーチン大統領は「アメリカの防衛網を簡単に突破できる」と豪語している。もちろん、それをうのみにするのは危険で、アメリカ側も「そのようなミサイルは確認できていない」との声明を出しているが、アメリカとほぼ同じミサイル防衛システムを導入している日本にとってもその真偽は気になるところ。これからも世界がプーチン大統領に引っかき回されることは間違いないようだ。
(写真/u.s.navy)