森友スキャンダルという内政問題だけでなく、外交でも安倍政権がピンチを迎えている。
3月26日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が特別列車で中国・北京を電撃訪問し、習近平(しゅうきんぺい)国家主席と自身初の中朝首脳会談を行なった。韓国紙記者がこう語る。
「2月の平昌冬季五輪で金委員長の実妹・与正(ヨジョン)氏が訪韓して以来、半島情勢は目まぐるしく動きました。北朝鮮が核開発の凍結をはじめとする非核化を打ち出し、トランプ政権も米韓合同軍事演習の縮小で応える―これは中国が以前から提唱していた『ダブルフリーズ論』そのものです。
ただし今回、その道筋を描いたのは中国ではなく韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権でした。中国の北朝鮮に対する影響力低下が指摘されるなか、韓国の仲介で米朝首脳会談が決まったことに、中国はひそかに焦りを強めていたのです」
誰もが驚いた金委員長の電撃訪中は、そんなタイミングで行なわれた。5月にも実現するとみられている米朝首脳会談の前に、習主席に「トランプと会う」と直接伝え、仁義を切った格好だ。
「これで中国はメンツを保てた上、“北朝鮮の後ろ盾”というポジションを再び得た。これを金委員長の立場から見れば、中国に恩を売りつつ、米トランプ政権に対して『中国も認める米朝首脳会談を決裂させることはできない』と圧力をかける効果も生まれる。金委員長にとってはこれが事実上の“国外デビュー戦”でしたが、その外交勘は侮れません」(韓国紙記者)
その一方で、なんとも微妙な立場に立たされたのが日本だ。「100パーセント、共にある」(安倍首相)はずの同盟国アメリカと一緒に対北圧力路線をひたすら踏襲してきた結果、米中韓朝4ヵ国(と、おそらく今後はロシアも参戦)が繰り広げる外交ゲームからはじき出されつつある。
さらに日本は、3月23日に“トランプ砲”を食らい、鉄鋼、アルミニウムの追加関税対象国にされてしまった。オーストラリアや韓国などが交渉の結果、追加関税除外国になった動きとは対照的だ。
元駐レバノン大使の天木直人氏はこう指摘する。
「安倍首相はトランプ大統領とゴルフをするなどして親密さをアピールしてきましたが、それも結局は“対米追従”にすぎなかったということ。米朝首脳会談を橋渡しした韓国のような独自外交をしていれば、トランプ大統領や金委員長も日本を無視できなかったはずです」
しかし、今の日本には反転攻勢に出る余力もない。外務省関係者はこうため息をつく。
「トランプ政権の追加関税措置に対し、中国やEUは報復関税なども含めた対抗策を着々と準備しています。ところが日本では、世耕弘成(せこう・ひろしげ)経済産業大臣ら政権幹部が『対象除外になるよう、粘り強く働きかけたい』などと、アメリカにさらなる“お願い”をするようなセリフを口にするばかりです」
前出の天木氏が言う。
「各国の利害がむき出しになる外交では、何を与えて何を取るかという見極めが大切です。ところが、今の安倍政権にはその戦略がない。アメリカに対して報復策のコブシを上げようにも、そのコブシすらないのです」
森友問題で急落した支持率を回復させるには、外交で得点を稼ぐしかないはずなのだが…。安倍政権の前途は険しい。