言葉の職業でもある政治家がちゃんと務まるのか心配です。

『ちびまる子ちゃん』の映画のキャッチコピー「友達に国境はな~い!」に赤池誠章参院議員が噛みつき、話題に。「国際社会とは国家間の国益をめぐる戦いの場である」というのが氏の言い分だが...。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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読めなかったなら問題だけど、読めていたのにあえて言ったなら、さらに大問題。赤池誠章参院議員の『ちびまる子ちゃん』の一件です。

2015年公開の映画『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』のキャッチコピー「友達に国境はな~い!」に「『国境がない』とはけしからん」と抗議していたことが判明した赤池氏。名古屋市の中学校で行なわれた前川喜平前文部科学事務次官の講演に"介入"したことが報じられている人物でもあります。

14年9月から1年間、安倍政権の文部科学省政務官を務めていた赤池氏。文部科学省と東宝がタイアップした『ちびまる子ちゃん』のキャッチコピーについて、「国の教育行政を担う文科省ともあろうものが『国境はない』などという嘘を子供たちに教えるとはどういうことか!」と猛抗議したそうです。

真意を問われた赤池氏は「国境は歴然としてある。国家があってこそ平和で安全な暮らしが守られる。私だったら『国境があっても、友達でいよう』にする」と述べました。

「友達に国境はな~い!」というのは当然ながら、「現実には国家間にはいろいろあるからこそ、それを超えた普遍的な人間性を大切にしよう」というメッセージなわけですが、その意味をあえて読もうとしない赤池氏の姿勢からは、「どんなときでも人間であることより国家の一員であることを優先すべきだという教育が望ましい」と考えていることがうかがえます。

もしも本当に単にキャッチコピーの意味が読めていないのだとしたら、言葉の職業でもある政治家がちゃんと務まるのか心配です。高度に比喩的な表現や儀礼的な婉曲(えんきょく)表現から真意を読み取らなくてはならない場面がたくさんあるでしょうし、演説では人の心を動かすような言葉を使いこなさねばならないはず。そんなものが必要でなくなったから赤池氏のような人が選挙に通り、要職に就いているのかもしれませんが...。

上司のご機嫌とりなのか官僚へのいやがらせなのか、この件では「文科省に猛省を促しておいた」と赤池氏。

笑い話にできないのは、そんな人物が現在も参議院文教科学委員という教育に関わる立場にあるということ。前川氏の一件では、前例のない教育現場への介入が問題視されました。映画のキャッチコピーひとつにも言いがかりをつけて子供たちの頭の中に手を突っ込もうとする政治家は、それこそ越えてはいけない境を越えようとしています。

折しも、道徳教科化は国による教育統制になりかねないと議論になっています。個々の生き方にどこまで国が関与するのか。まさかとは思うけど、マイペースで楽天的なまる子が、いつか「あたしも立派な国民にならなきゃな」とか言いだすんじゃないかと心配です。

小島慶子(こじま・けいこ) タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など。